夢現微睡み沈む | ナノ


アンドロイドは電気羊の夢を見るか?


ぼやけた目で辺りを見渡すと、低音で私の名前を呼ぶ声がする。ああ。今日も夢から覚めない。


「おはよう」

「…おはよう」

「俺は出勤するが、お前はゆっくり飯を取るといい」


そう言ってネクタイを締める真田くんを横目に、ホカホカと湯気を立てているご飯を口に入れた。和食の基本的な朝食として教科書に載っていそうな献立。おだしのいい匂いがする。


「今日は遅くなるかもしれん」

「…」

「では行ってくる。名字、愛してる」

「……」


焼き魚をほぐして大口で頬張ると、真田くんは満足げに微笑み、がちゃり、鍵をかけた。

真田くんの愛してるはいつの間にか聞き慣れてしまった。このちょっぴり濃い味付けも、私の身長よりずっと高い窓から差す僅かな日光も、足元で存在を主張するこの足枷も、みんなみんな慣れてしまった。







真田くんに監禁されて、もう何日たったのだろうか。はじめこそは数えていたのに、もうよく覚えていない。

ここに来てから、私の毎日は何もかもが一緒で、何一つ代わり映えがないものになった。…唯一違うモノがあるとすれば、それはこうやって彼から出されるご飯くらいだ。私のすることは食べることと寝ることしかない。かちゃり、お箸をおいてその場に寝転んだ。


今日も、悪夢から覚めない。



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