パンツ
「爪は大丈夫ですね、それでは……」
結局何もできぬまま、私は服装検査の列に並んでいる。女子なのにチェックするのは柳生くんということに疑問符を浮かべたけれど、このクラスに風紀委員がいないのと女子で風紀委員という人が少ないから、わざわざ隣のクラスから来てくれたそうだ。
「それでは次の方、どうぞ」
ついに私の前の子が呼ばれてしまった。一生来ないで欲しいけれど、早く終わっても欲しい。ここまできて私に二つ目のピンチが訪れていた。
トイレに行きたい
緊張してお茶を飲んだのがいけなかったのか、クーラーで冷えたからかはわからないけれど、今私は猛烈にトイレに行きたい。なんとか保ててはいるけれど限界も近い。今日はなんて運の悪い日なんだろう…。
「苗字さん」
「あっ、は、はいッ!」
「そんなにかしこまらなくてもいいですよ」
勢いよく返事した私に優しくほほえみかけ、まずは爪を見せてくださいと柳生くんは言った。
「長い、かな?」
「いいえ大丈夫ですよ……おや?」
「どうし…ッひゃあん!」
突然手を掴まれて変な声が出る。びっくりしたせいか、こらえられそうだったはずの尿意が激しく襲ってくる。恥ずかしくって顔が熱くなったと思ったらそれで一気に血の気が引く。
そしてそんな私に驚いた顔をして私の手と顔を交互に見る柳生くん。よりによって、柳生くんに、なんて恥ずかしいことを…ッ!
「す、すみません指のところに小さな傷があったので…急に女性の手を掴むなんて紳士としてあるまじき行為でした…」
「あ、ご、ごごごめんっ柳生くん!私っその、びっくりしたというか、えっと、あの」
「慌てなくていいですよ、ですから、落ち着いてください」
そのあと、ふたりして妙に気まずくなってスカート丈だとか、そういうのに関してはすぐに終わった。
もう恥ずかしくて死にたい。柳生くんに謝って、私は教室を飛び出した。やばい、もれる。走ったら危険だと直感が伝えるので、できるだけ早足でトイレを目指す。あと少し、あと少しでトイレにつくんだ、頑張れ私……
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