いのち
「…こ……」
「こ?」
「殺してくれ…」
同級生、ましてや友達(しかも異性!)に下着を拾われるって…もう嫌だ引きこもろう…私の切なる願いをスルーした柳くんは私の下着をまたカバンに入れ、さて、と話を戻そうとする。もうやめてくれ。
「俺がお前に言いたいことはひとつだ」
「私がしたいことはただひとつ、家に帰って一生外に出ないということだよ…」
「この下着の色はお前には合わない」
「……は?」
「お前にはもう少し色味の抑えたものの方が肌が映える。この場所から東に50mほど歩いた場所にあるランジェリーショップに展示されている左から二つ目の下着のような色が合う。行くぞ」
「ちょっ!ちょ、ちょい!!ちょい待って!!」
行くぞ、とはつまり下着を買いに行くということなのか…!?なんで、なんで!?確かにパンツ穿きたいけど…でもそれはちょっとどうなの!?彼氏でもない男の子とランジェリーショップに行って下着を買うって…女の子として、人間として、ダメな気がしてしょうがないよ!
「忘れるなよ苗字、お前には人質がいることを」
「え…?」
柳くんがカバンから再び見せたそれは…わ、私のパンツ…!そう言えば柳くんが持ったままじゃん!返してと言っても一向に返してくれず、ついにはお前が行くというのなら返却しようと言われてしまった。そんなことを言われたら、嫌でも行くしかないじゃない…ッ!
洗濯機にジャージを入れて大きな、大きなため息をついた。ゴウンゴウンとせわしなく動く洗濯機にもたれかかり今日の出来事を思い出す。死にたい。あのあと結局その場で柳くんが下着を買い私にプレゼントしてくれた。う、嬉しくない…しかし背に腹は変えられないので穿いて帰えろうとしたら柳くんに人質(というよりパンツ質?)を返さないと脅され、結局家までノーパンだったのだ。パンツあるのに。パンツあるのにノーパンって。ちなみに返されたパンツは殺処分されました。
「…あれ、メールきてる…?」
メルマガだろうか。虫の居所が悪いのにこういうメールが来ると無性にイライラする。ちくしょう。すぐに削除して…
「ま、丸井くん…」
丸井くんからのメール、だった。内容は家に着いたか、そしてちゃんと明日学校に来るように、と書いてある。見抜かれてる…でも確かに彼から借りたジャージを返したいしお礼も言いたい。引きこもりはやめよう。辛いけど明日、ちゃんと顔を出して、ありがとうと告げなければ。
軽快な音楽が洗濯の終わりを知らせる。よし、とりあえずこれを干さなければ。明日には返さないといけないのだから。
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