はぁ…と息を吐けばぼんやりとした白が漂う。もうすっかり冬だ。つんと鼻を冷たい風が襲った。
最近暗いからということで、待ち合わせが自動販売機の前になったのは少し前のことである。ここについて買った缶のココアはもうすっかりぬるいけれど、冷えた指先を温めるならちょうどいい気もする。
「…っはあ!……ワリィ!待ったよな!?」
「…もう、そんな走らなくったっていいのに」
「こんなさみぃのに待たせてられねーだろ」
そう言いながら、息を切らして宍戸くんは私に手を振った。はにかんで小さく手を振ると少し照れたように返してくれる。
「わたし、寒くないよ」
「嘘つくなって。鼻真っ赤だぞ」
「えっ!?や、やだなぁはずかし…って宍戸くんも鼻赤いよ?」
「ゲッ!マジかよちょいダサだぜ…」
「へいきへいき、ダサくないよ。ね、ちょっとこっち来て」
「なんだよ」
宍戸くんを手招きすると、ちょっとめんどくさそうにこちらに来てくれる。少し背伸びをしながら手を宍戸くんの首に回す。わたしの名前を呼びながら戸惑い気味な宍戸くんをよそに、ほどけかけていたマフラーを巻き直して結ぶ。「ああ、そういう…」ぼそりとつぶやいた宍戸くんに「なにが?」と聞くとバツが悪そうに、上の方を向かれてしまった。宍戸くんは背伸びしてもちょっと高くて、なかなか上手に結べない。マフラー、走ってるうちにこうなっちゃったのかな?
「なんか宍戸くんかわいい」
「はあっ!?」
「マフラーぐるぐる巻きでかわいいよ」
「ぐるぐるしたのは苗字だし、似たようなもんじゃねぇか」
「確かに、私も一緒だ」
ついついマフラーってぐるぐる巻いちゃうんだよね。えへへ、なんて笑うとため息をつれてしまった…ちょっと悲しい。
やっと上手に結べたため、マフラーから手を離して宍戸くんのほっぺたに触ると、思っていたよりもあったかい。今気がついたけれど宍戸くん、鼻もほっぺたも真っ赤だ。
「宍戸くんのほっぺたあったかいね」
「うるせぇ」
「手もあったかい?」
「つめてぇよ。今日手袋してねぇし」
そういえば宍戸くんはずっとコートの中から手を出してない。なるほど、寒かったのか。無理やり宍戸くんのコートに手を突っ込む。ごそごそと宍戸くんの手を探して握ると、ほんとに冷たい。
「うわっ、バカ!なにすんだよ!」
「宍戸くんめっちゃ手つめたいね!」
「…苗字はあったけぇよな」
「うん、ココア飲んでたし…宍戸くんも飲む?わたしの飲みかけだけど」
「……」
「…そんな無言でお財布出さなくったっていいじゃん」
確かに私のはもうぬるいけどさ。ちょっと悔しいから宍戸くんのコートから手、出してやんないもんね。ずっと握っててやる。
がちゃんと飲み物がおちる。それをとって…ん?なんで私に差し出すんだろう。宍戸くんが買ったんだし自分で飲めばいいのに。
「お前のやつと交換してやる」
「え?」
「だから、早く…よこせよ」
「あ、う、うん!はい!あの、これ、ぬるいよ?」
別に構わねーって、なんて言って私に買ったばかりのココアを握らせる。これのせいか手も顔も心もあったかい。ああもう、宍戸くんってなんでこんな優しくてかっこよくて…。握った宍戸くんの手から大好きって伝わるように、ギュッと力を込めた。
「ホントにぬるいなこれ」
「だから言ったのに…交換する?」
「いい。お前が飲んでたやつだから飲みたかっ…なんでもねぇ」
「…ふぅん?」
私が言うとうるせぇ!なんて一喝してくるけれど、全然怖くない。宍戸くんはたまにかわいいことを言ってくるから、いつもドキドキしっぱなしなのだ。
ふと、ほっぺたにひんやりとした物が落ちた。空を仰ぐとゆっくりと雪が落ちてくる。うわぁ、初雪だ。
「雪だよ宍戸くん」
「だからこんな寒かったのか」
「ねぇ宍戸くん」
なんだよ、と宍戸くんがいう前に振り向いた頬にキスを落とす。閉じた目を開けると、耳まで真っ赤にした宍戸くんがぱくぱくしている。それを見たらなんだか自分まで恥ずかしくなってきて、思わず下を向いた。
「あ、えと、初雪記念日のキス…な、なんちゃって……えへ」
「…なにが初雪記念日だよ」
へらへらと笑いながら言うわたしに、宍戸くんはため息をして、静かに名前を呼んだ。宍戸くんを見上げ、なに、と言う言葉をいう前に、宍戸くんはわたしにキスを落とした。わたしのしたように頬じゃなくて、ちゃんと唇に。
「あ、あの、宍戸くん」
「…文句は聞かねぇからな」
「だいすき」
もう寒さなんて感じていなかった。どんなに冷たい風が吹いても、宍戸くんと一緒だと、あったかい。わたしの手を強く握り返してくる宍戸くんにもう一度だいすきと伝えれば、赤い顔をして名前と名前を呼ぶので、おもわず笑みがこぼれた。
「ずっとずっと、大好きだよ」