※赤也に対してちょっとひどい



うるさい。どうして男子という生き物はこうもうるさいんだ。騒がないと生きてられないのか。マグロとかそういうのの仲間なのか。机に次の授業で使う教科書を置き、あたりの喧騒さに紛れ込ませるようにため息をつく。早く席替えにならないかな、なんで私は切原くんの隣になんかになってしまったんだろう。

切原くんは基本的にうるさい。黙っているのは寝てる時だけで、授業中も休み時間も、HRですらうるさい。だから隣の席である私はいい迷惑なのだ。ちなみに今は切原くんの髪のことを周りの男子がからかっているせいで普段の二割…いや三割増でうるさい。そんなに髪のことでとやかく言われるのが嫌なら坊主にしてしまえ。


「ほんと切原はワカメ頭だよな」

「うるせー!んなことねぇし!苗字もそう思うだろ!」

「…えっ、わ、私?」

「おうよ。な、どう思うよ」


なんでここで私に話をふってくるの。切原くんと話をしていた男子が私を見て笑っている。こういう男子の会話の中にぶっ込まれる私の身にもなって欲しい。切原くんから目を離し周りを見渡すと、女子からは憐れんだ顔を、男子からはからかったような顔をされる。な、なんだよニヤニヤして…ものすごく不愉快だ…!舌打ちしそうになるのを抑え、できるだけいつも通りの顔で口を開く。


「別に、ワカメとは思わないけど」

「えっ…だ、だよなぁ!そーれみてみろ!聞いただろ!やっぱり女子から見ればそうなんだよ!」

「(だって切原くんの髪の毛ってワカメよりひじきっぽいし…とは言えないよなぁ)うんうんそうだね素敵なんじゃないパーマしなくて済むし」


口からでまかせ、適当に答える私に感動した様子で周りに言う切原くん。そんなに嬉しいのか、ワカメじゃないのが。でも私ひじきっぽいな、とは思ってる。ごめん。


「よかったなぁ切原、ワカメじゃねえってよ」

「な!肝心の苗字さんにワカメって言われたら立ち直れねーもんな、お前」

「うるせー!」


ほんとうるせぇよ。あーもうやってらんない。教科書を机の隅にずらして溜め息をつきながらうつ伏せる。寝れるわけないけど、とりあえずこの空間にいたくない。もうすぐ授業が始まるし、あと少しの辛抱なのだ。





「な、苗字って好きなやついんの?」

「ハァ?」


あと少しの辛抱だと思ったのもつかの間、備え付けの電話から教科担当からの自習という指示が入った。騒がしさそのまま、私もうつ伏せたまま…だったのだが、それを切原くんに妨害される。なんだよ、ちょっかいかけないでよ、なんていう前に切原くんがああいう馬鹿なことを聞いてきやがったのだ。ンなあほな。


「別にいないけど」

「えっ!じゃ、じゃあ、好きなタイプ…とか…」

「…静かな人?」

「ゲッ…柳先輩みてぇな?」

「そういうことにしといて」


柳先輩って誰だよ。お前の先輩をどうして把握してると思うんだよ。静かな人というか、今は静かで私の睡眠を妨害しない人なら誰でもいいのだ。当たり前だが騒々しい人よりは静かな人といる方が良く眠れるし。もう一度私がうつ伏せても、切原くんは何も言わずにいた。目を閉じて少しの息苦しさを感じながらも、どうにか寝ようとしてみる。周りは依然としてうるさいままだ。けれどその中に切原くんの声はない。…もしかしたら、彼もまた私のように寝ようとしているのかもしれない。まあそんなことはどうでもいいので私は寝ることに専念した。





「…あれ、寝てた…」


絶対寝れないと思ったのに、割と寝れるもんだなぁ。軽く伸びをすると隣から「おはよ」と声がかかり、同じように返して、違和感に首をひねる。珍しい。いつもなら切原くんうっさいのに。何か喋ってないなんてことありえないくらいのやかましさを誇る彼が、私におはよと声をかけ、何も話さずそのままだ。


「静かだね、切原くん」

「…へへ、まあな!」

「珍しいこともあるんだね」


いつもうるさいのに静かだと正直気持ち悪い。急に変わりすぎだよ。男子という生き物は、まったく、訳のわからないものだ。時計を見れば授業が終わるまであと5分はある。さて、何をするか…と考えていると切原くんと目が合う。それと一緒に彼の口が開かれるので、それに少し安心した。お喋りな方が落ち着くなんて、慣れとは恐ろしい。


「苗字ってさ、本とか読むわけ?」

「まあそれなりにはね」

「それなんてやつ?」

「…読むの?」

「…努力はする」

「なんかさ、切原くん様子変じゃない?大丈夫?妙に静かだし」

「べ、別にいいだろ!」

「いいけど…でもなんか落ち着かない。私はいつもの切原くんのが良いと思う」

「…そうか?」


騒ぎすぎなければ彼から始まる雑談タイムは嫌いじゃないし、寧ろ楽しかったりもする。切原くんの言語力は乏しいが話の内容は楽しい。つまりほどほどなら、そう、加減次第なのだ。


「それなら、へへ、いつも通りでやるぜ!静かなのって性に合わないっつーか気持ちわりぃし」

「それ自分で言うのね。っていうかなんで静かにしようなんて思ったの?切原くんらしくもない」

「…お前が言ったんだろ、静かな人がいいって」

「だからってどうして切原くんが静かになるのよ、変なの」

「そ、それは、その…俺だって2年だし?そろそろ落ち着こうかな、みたいな?」

「…今更だしどうして疑問系なのよ」


ますます訳のわからないやつだ。ちなみにこの後の授業は止めどなく切原くんが騒いでいたのでいつも以上のやかましさだった。あんなこと言うんじゃなかったと後悔したが、もちろん切原くんが静かになることはなかった。
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