※原作始まる前のお話



「ちくしょうあいつら…」

部活も無事終わり、本日当番の部誌を書きながら悪態をつく。誰もいない部室でこんなことしても意味が無いのはわかっているが、文句の一つでも言いたいのだ。おいお前ら、私ちゃんとバレンタインにチョコ渡したよね?ちゃんと一人ずつ手渡しで手作りで渡したよね?なのになんで誰一人としてお返しくれないかな!?え?実は忘れてたよアハハーなんてオチなの?
バレンタインに「お返しはいいからね、部活頑張ってね」なんて都合のいいことを言ったのは覚えてる。だってそっちの方が部活全体のモチベーション上がりそうだし。でもさ、でもさ、その言葉に「それでもお返しよこせよ」っていう言葉が隠れていたのには気づいて欲しいというか…


「まあそんなこと言っても遅いんだけど」


もういいや、来年はお返し強要しよう。今年の分も含めて5倍返しくらい…って、もうその頃には卒業してるのか。ダメだこりゃ。部誌の本日の出来事と書かれたスペースにホワイトデー(但し我が部活には無縁)なんて書き込み、荷物を片付ける。カバンを肩にかけ椅子から立った瞬間、部室のドアの奥からノックの音。珍しい、部室をノックするなんて、私でもしないのに。


「はーい、どうぞ?」
「あ、よかったマネージャーまだいた!」
「なんだ、千石か。さっきまで部誌書いてたしね…でももう帰えるよ。何か用?」
「何か用って…そんなの決まってんじゃん!」
「じれったいな、早く言ってよ」

緩みきった顔をさせて私に近づく千石へいつものように適当にあしらいため息をつく。コイツはたまに突拍子もなく変なことを言ってくるから、あまり真面目に話を聞いてはいけないタイプの人間だ。


「やだなぁ!3/14っていったら一つしかないでしょ?そう!ホワイトデー!!」
「え」
「はいこれ!お・か・え・し!!」
「うわ、ちょっと引いたけど嬉しい…ありがと千石、私あんたのそういうところ好きだよ」
「俺はマネージャーの全部が好きだけどね」
「はいはい」
「あ!本気なのに!」


手渡された小さな袋を抱きしめるようにもって、もう一度お礼を言うと、千石のくせに珍しく照れたような表情をしている。やっぱり嬉しい、忘れてたわけじゃないんだ。そりゃ女の子大好き人間の千石がこういうイベントを忘れるなんてこと自体考えられないけれど…総スカンくらった身としては感動ものなのだ。


「そんなに嬉しかった?」
「うん、すっごく」
「…うっわあ…だってもう、かわいいじゃん!?でもこれ俺だからじゃなくてお返し貰ったからなんだよね、現金なんだから!あー、ねえッ!ギュッてしていい!?」
「え?別にそれくらいならいいけど…」
「マジで!?」


だらしない顔をした千石が私に飛びつく…直前に、また部室の部屋がノックされる。今日はよくノックされる日だ。はーいと返事をすると勢い良く開かれるドア、そしてなだれ込む部員たち。な、なんだ…何事か…


「…あ、あれ、お邪魔した…?」
「そうだよ!!」
「いや、千石は無視していいし邪魔でもないけど…何?みんな残ってどうしたの?まだ練習してく?」
「それはちょっと…ってそうじゃなくてさ、今日はマネージャーに渡すもんがあって」
「今日はもうユニホーム洗いたくないんだけど」
「だからそうじゃないって!あーもうほら、ホワイトデーの!!」


南の言葉のあと、一年生がいつもありがとうございます、なんて言って私に色紙と花束を差し出してくる。わ…花束なんてもらったの初めてだ…。あちらこちらから感謝の言葉が飛び交って、少し涙が出そうになる。なんていい部員たちなんだ。目頭を押さえる私に室町がうわ…なんて声を上げる。失礼この上ないが今日は許そうじゃないか…ごめんねみんな。私、忘れているのだとばかり思ってたもんで…


「でもこれ卒業するみたいだね、私」
「そういう意見もあったんだけど、予算的な都合で…まあ部員全員からのお返しってことで!」
「ん?」
「いやぁ、先輩は楽でいいですね」
「ちくしょうてめぇら!涙も引っ込んだわ!オイ室町、お前は一発殴らせろ!!」

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