※大学生設定



急におだしが恋しくなって、コンビニでおでんを買う、なんてこと誰だってあると思う。特に寒い日は。
そんなわけで、どうしてーも食べたくなった私はパジャマのまま、上に半纏を着てコンビニを目指した。いちいち着替えるのもめんどくさいし半纏のおかげでぬくぬくしてるから、女子として失格スタイルでも気にせず街に繰り出したのだ。

まあすぐに後悔するんだけど。


「苗字さん、こんな時間に何してん?」
「し…白石くんこそ、こんな時間に何してるの?」
「俺?俺はどうしても食べたいアイスがあるんやけど近所のコンビニに置いとらんかったから別のコンビニに向かってるとこやねん」
「へ、へー……」


最悪だ。

なんでよりによって白石くんとばったり鉢合わせるんだ。こんな格好の時に。運命の女神はアホか。
あれ、苗字さん?やっぱりそうだと思ったんや。半纏あったかそうやなぁ…ま、俺も着てるんやけど!なんて笑いながらキラキラオーラ振りまいて後ろから話しかけられたときは死ぬかと思った。というか死にたかった。憧れの白石くんに会うとわかっていたら、もっとかわいい格好できたのに。


「んで苗字さんは?」
「コンビニにおでん買いに…」
「おっ!いいなぁおでん。あったかいもん食べなくなるもんなぁ」
「白石くんアイス買うんでしょ?逆じゃない?」
「んんー!いいツッコミや!」


こたつでアイス食べるん好きやねん!と笑顔で言う白石くんは夜なのに輝いて見える。半纏を着ているくせにムカつくほどかっこいい。何だこの差。同じ半纏でも白石くんのイケメンオーラによってパリコレに出た超イカしてるジャケットみたいに見える。
どうやら白石くんと私は同じコンビニに向かっているようで、街灯に照らされた街を二人歩く。サークル内でちょっと憧れてた白石くんと二人っきりで歩いててもぜんっぜん嬉しくない。むしろ早く終われ。ちらりと見た横顔が無駄にイケメン過ぎて無性に泣きたくなった。







「苗字さんなに買うたん?」
「いや、だからおでんだって」
「そうじゃなくて具や、具。なんの具にしたんかなって」
「え?大根とか白滝とか卵とか…」
「ええなぁ、まさに王道っちゅー訳や」


コンビニについた私は最早無心だった。ちょっと気になってたとはいえ、こんな格好を見られては脈なしどころの話じゃない。もうどうにでもなれ。おでんの具について熱く語り出した白石くんをおいて会計をする。私の後ろに並んだ白石くんは色々と話しかけてくるけど、みんな気の無い答えで返す。やけくそもいいとこだ。


「あ、苗字さん送るで」
「いや、いいよ。アパートすぐだし」
「そう言わんといて、苗字さんかわいいし何かあったら困るやろ?」
「……あの、白石くん。流石にこんな半纏女を襲う物好きはいないと思う」


いたら正座させて熱いお茶出して大丈夫?って哀れみの目で尋ねることになる。そんなことを苦笑いしながら話す。なにがよくてこんな色気のいの字もない格好の女を襲わなきゃいけないんだ。私なら絶対やだ。だから、突然白石くんが私の腕を引っ張ってぎゅうっと抱きしめられても間抜けな声しか出なかった。


「おるよ」
「…は?」
「俺は結構グッときたで、その格好。無防備で普段なら絶対見られない格好とか結構そそるし、何より女の子にこういうこと言うんはちょっと抵抗あるんやけど苗字さんブラしとらんやろ?なんというかたまらんっちゅー話や。気づいたとき思わずツバ飲み込んでもうたわ!それにパジャマをチョイスするとこがええねん。ネグリジェとかもまあグッとくるといえばくるやけど俺はパジャマ派というか、ボタンをはずして…っていうの、めっちゃエロいと思わん?大体苗字さん風呂上がりちゃう?めっちゃいい匂いするやん?髪の毛サラサラやん?抱きしめて頬ずりして匂い嗅いでたいってずっと思っとったんよ。更に言うんなら苗字さんと一緒に帰ることによってどこに住んでるのか知りたいっちゅーのもあるんやけど…」
「……」


長ぇよ!!
なに言ってんだコイツわけわかんねぇや!はじめの方は割と真面目に聞いてたし、抱き締められたことから赤面したしもしてたけど、ノーブラのくだりから聞き流した。こんなこと本人に熱弁することじゃない。ドン引きもいいところである。
なんとも言えない顔をしたあと、腕の中からするりと抜け出し早足で帰路につく私。そしてそれをイケメンスマイルでついてくる白石くん。もう白石くんって呼ぶのもなんかムカつく。チクショウ白石め。


「突然急いでどうしたん?」
「おでん冷めるから」


なるほどなぁ!なんて言って隣を歩く白石はやっぱりかっこよくて、不覚にもドキンとしてしまう。ああクソ、私の淡い恋心よ、早く消えてなくなってくれ。


「ここ、私の家だから。送ってくれてどうも」
「気にすることあらへんって、俺が送りたかっただけやし」

そんなことを言いつつ私の頭を撫でる白石は、恐ろしくかっこいい。神の作りし芸術品かなんかみたいだ。半纏きてるけど。変態くさいけど。


「それじゃまたな、苗字さっくしゅん!」
「……」
「…あかん、カッコつけよう思っとったのに決まらん終わりになってもうたわ…」


盛大にくしゃみをかました白石は苦笑いをしながら鼻をすすった。そりゃまあ、寒いし。はぁ、とため息をついて家の鍵を開ける。つっ立ったままの白石を手招きして、私はそそくさと玄関で靴を脱いだ。驚いて目をぱちくりさせる白石が面白い。


「…ええの?」
「言ったよね、そんな人いたら熱いお茶出して正座させて大丈夫?って尋ねるって」
「俺、流石に女の子の部屋にこんな時間に訪れて襲わんっちゅう自信、ないで?」
「…で?入るの、入らないの?寒いからはっきりしてよ」


私の言葉に白石は今までに見せた物と比べ物にならないくらいかっこいい笑顔を見せて、私の家に入った。イケメンオーラにあてられてクラリとしながらお湯を沸かす。白石をこたつに入るように促して、お客さん用の湯呑を出す。振り返ればドヤ顔で白石が私を見て、カッコつけたように続けた。


「据え膳食わぬは男の恥っちゅうことや」
「据え膳より先にアイス食べたら?」


私のツッコミにこりゃ一本取られたわ!とかなんとか言ってる白石にちょっとときめいたことを悟られないように、コタツに入って冷えたおでんを口にした。
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