「これ、宍戸くんにお願いしてもいい?」
「…えっと…ごめん、これなに?」
「見ればわかるでしょう?手紙よ、手紙」


昼休み、お弁当を食べ終えた私に来客。名前を聞いてもピンとこない。首をかしげて会いにいくと、やっぱり面識のあるわけでもない女の子に、宍戸くんと幼なじみなんでしょ?なんて言われながら手渡された、一通の手紙。なんで私に。
受け取ってよく見てみると、淡い桃色の封筒のそれは宛先のところには、女子特有の少し丸まった字で『宍戸亮くんへ』と、書かれている。ひっくり返してみると、宛名には何も書いてない。いや、中に書いてあるのかもしれないけれど…
私があまりにもガン見するものだからか、それじゃあ宜しく、なんて言って女の子はそそくさと去っていった。彼女が居なくなっても、クラスメイトに邪魔と言われるまで、ぼうっと立っていた。恋愛とかに疎いとは言われる私でも、わかる。これ…ラブレターじゃね?


「ほんとに、なんで私なの…」


手の中でしっかりと主張するそれと宍戸の顔が重なって、心臓が嫌な音を立てて主張する。





「おい」
「うわぁ!…なーんだ宍戸か」
「なんだってなんだよ」


帰り道、突然後ろから声をかけられてびくりとする。本日私の中で大注目ワード堂々2位(ちなみに1位は手紙だ)である彼に話しかけられたもんだから、平然を装いつつも心臓ばっくばくだ。急に話しかけてくるなよ…


「なんか用?」
「いや、特にねぇけど」
「じゃあ話しかけないで」


いつもより突っぱねてしまうのはカバンの中にあるアレのせいだ。変に意識してしまって、むずむずする。それを宍戸に悟られたくなくて心の奥でため息をつく。
中学生になって、私は宍戸と距離を置いた。理由は簡単、周りに茶化されたから。これに尽きる。幼馴染みだからと何度説明しても付き合ってるんだろ、なんて言われるし少し話しをするだけでも冷やかされる。
それがとても嫌だった私は手軽にできるところから変えていった。呼び名を変え宍戸と呼び、自分から話しかけることはほとんどなくなった。そんな私に宍戸は少し悲しそうな顔して、それでも今まで通り私に接した。


「ったく…んなこと言うなよ。ならコロ。コロ元気か?」
「元気。最近はお母さん専属の枕になってる」
「あー…確かにふわっふわだもんな」


コロとは私の家にいる犬のことだ。昔は宍戸も家に来てコロと遊んんだりしてたなぁ。昔のことを考えるとキュンと胸が苦しくなる。昔に戻れたらいいのに。そうしたら私は前みたいに宍戸と遊んで、笑いあって、こんな手紙だって、手紙だって……


「あの、宍戸」
「ん」
「えっと、さ…その」


手をカバンに突っ込んで手紙を握る。渡さなきゃ。あの子はきっと、私なら渡してくれると思って託したんだ。だからちゃんと渡さなきゃ、いけない。
手紙をカバンの中で掴んだ私に、どうしたんだと聞く宍戸。この手紙を渡したら、宍戸との距離は離れていっちゃ運じゃないか。急にそんな考えが浮かんだ。私から離れていったのに、離れて欲しくないなんて。そんなのわがまますぎる。でも私はまだ、宍戸といたい。

ぐしゃり

そんな音が底から聞こえて、早くって私を催促する宍戸の声、私、この手紙、渡したくない。手紙から手を離して今日買ったばかりの飴を取り出す。袋を探している時に視界に入った手紙はもうただの紙くずになっていて、それを見て少し優越感に浸る。


「…飴、あげる」
「お、サンキュ。…でもめずらしいな急に。なにかあっただろ」
「なによそれ、失礼じゃない?」


私が目の前に飴をつきつければ顔をほころばせて礼を言う宍戸。この顔をあの子は知っているんだろうか。私の様子に目ざとく気づいた宍戸に、冷や汗をかきつつも口角が緩む。バレないように、悟られないようにって行動したのに宍戸には感づかれていたようだ。


「いつもより声のトーン低かったし」
「…そんなんでわかるの?」
「そりゃ伊達に幼馴染みやってねぇよ」
「そっ…か。うん、そうだね」


気がつけばいつの間にか私の家の前で、宍戸と揃って足を止めた。バイバイと言って家に入ろうとすると、宍戸が腕を掴んで引き止めた。まだなにがあったのか聞いてない。私の目をジッと見つめる宍戸に思わず手紙のことを言いそうになる。いけないいけない、これだけは、秘密なのだ。


「なにもないよ」
「嘘つけ」
「嘘じゃない、本当になんにもないの」


嘘、本当はね、女の子から宍戸宛の手紙を頼まれたの。ごめんね嘘ついて。
伝わらないってわかっているけど、そんなことを視線に込めてできる限りの笑顔を作った。


「心配してくれてありがと、亮」


お礼と一緒に、昔みたいに名前で呼んでみた。昔に戻りたいと願うなら、自分から戻せるところを変えればいい。まずは呼び名からだ。
まさかそう来るとは思ってなかっただろう亮は赤く染めた顔で口をあけて私を見ている。昔はずっとこうやって呼んでたのに、変なの。亮の掴んでいた手が急にゆるくなって、すかさず彼から離れて、玄関の前に行く。それを見た亮は少し物欲しげに私に手を伸ばし、静かにおろした。


「この呼び方じゃダメだった?」
「あ、いや!全然構わねぇぜ!?」
「じゃあまたこう呼ぶ。…またね、亮」


それだけ言って家に入り、玄関の戸を閉めた。ふう、とため息をひとつついて、部屋に向かう。
初めて亮に嘘をついてしまった。今まで嘘なんてついたことなかったのに。


「ごめんね」


そうは言っても感情は素直で、口元を押さえても、ついつい上がってしまう。カバンに入ったくちゃくちゃな手紙。亮の目に触れることは、きっとないだろう。優越感とほんの少しの罪悪感。亮だけは、ほかの女の子には渡したくない。
早く月曜日になればいいのに。そうしたら私は、昔みたいに亮と話をして、笑い合うのだ。別れたばかりなのにもう恋しい。そんなことを考えながら、もはや紙くずと化した手紙をゴミ箱に捨てた。


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企画『君と奏でる恋の詩』様に お題『嘘を覚えた金曜日』で提出。

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