短編 | ナノ







生まれて十数年経ったけれど、私はキスというものをしたことかなかった。彼氏がいないわけじゃないし、現在、私には勿体無いくらいイイ男と恋人同士である。でもそういう事はしない、かなりプラトニックな関係で。
わははは!そんなことしなくても生きていけるっての!…と言っていたのが一昨日。そして今、私はなんともまあ、驚くべきことに初キッス目前なのである。キスをしなくても生きていけるけれど、私はできるなら好きな人とキスをしたり、それよりもっと先までしたい、っていう願望もあるので…私は浮かれに浮かれてる!やったね!!


「いいか」
「…うん」


しおらしげに目をつぶり、少し唇を突き出す。なんとかお祭り騒ぎの心中を悟られないようニヤケを抑えるのに必死だ。目をつぶってわからないけれど、確かに私の近くに織田くんの気配がする。少しして私の肩に、頬に、手が置かれ、そしてそのまま…


「…」
「…」


お互いに力が入りすぎていたのか、ファーストキッスは思っていたよりも硬いものでした…唇ってこんなに硬くなるんだね…私びっくりしちゃったよ…


「あのさ!もう一回したいな、なーんて…」
「奇遇だな、俺もだ」
「その前に…その…深呼吸!深呼吸しよう!」


すう…はあ…と二人繰り返し、もう一度向き合う。今度こそ!「うわ、織田くんの唇って柔らかぁい…」っていう感想を!言いはしないけど持ちたい!さっきと同じように、けれど主に口付近の力は抜いて目をつぶる。少し口を開いておけば自然と上手にできるのではないだろうか。我ながら素晴らしい考えを思いついてしまった。ようし…これなら上手くいくぞ…!


「ぅえッ!?」
「ッあ、いや!悪気があったわけじゃないんだ!!ああ!!その通りだとも!!」
「な…な、なんで唇を食べ…ええっ!?」


待ち構えていた私の想像を斜め上に駆け抜けていく衝撃に、思わず後ずさりする。重なると思っていた彼の唇は私の唇を挟むように押し付けられた。というか食べられた。その上、す、吸われた…。顔が熱い。恥ずかしいとか、そういうレベルじゃなくて、もう、顔が見れない。なんでそんなことしたの!バカ!!エッチ!!


「口を少し開ければ、こう…上手くいくんじゃないかと」


私とまるっきり同じ理由だった。だからって織田くん口開けすぎでしょ…チューじゃなくて完全に食べに行ってたよ…


「別にいいんだけど!でも、その…なんというか…もう一回しない?」
「…いいのか?」
「とりあえず、普通にチューできるまでは」


ここまで来たらもう意地だ。私はふつうのキスができるまで引くつもりはないぞ。三度目になるキス待ちをし、はじめの浮かれっぷりもどこか行った私は最早投げやりでもあった。まだかな、なんて思ったところで…また、織田くんが唇をたべた…目をガン開きにし、非難の声を上げようとしたところでまた織田くんが近づき、私の唇を弄んでいく。もう目も閉じずひたすらチュッチュとキス…というか唇を食われ続ける私…なんなんだこれは…


「まって…織田くん待って!」
「いやだ」
「いやじゃねーよ!なんだよ!普通にしてよ!」
「さっき、普通にできるまではいいと言っただろ」
「言ったけどさあ!」


あ、呆れた…織田くんの服を掴んで思い切り引き寄せる。ええい!服が伸びようが私の知ったこっちゃないわ!勢いのまま織田くんにキスをする。ちょっと鼻がぶつかったけど、でもこれでやっと普通にできた…長い道のりだったなぁ…。


「今日は!これ以上は!ダメだからね!」
「今日は?」
「…今日は」








<<>>

×