短編 | ナノ







今!スカートめくりが雷門中1年で大ブームだ!
きゃあ!という悲鳴の方を向くとまさにその現場が繰り広げられている。こ、こどもっぽい……。そんな中で私は隣の彼、染岡くんのおかげで特に被害にもあわずに悠々と日々を過ごしていた。
彼との接点は委員会だ。ジャンケンに負け不幸なことに私は運動神経皆無なのに体育委員を任されることになってしまったのだ。ガチゴチの準備体操に始まりボールの片付けをしてカゴをひっくり返す、バレーボールのネット貼りは身長と力が足りず上手くできない……そんなもおマヌケすぎる私をなんだかんだとサポートしてくれているのが染岡くんだ。いつも本当にありがとうございます。
さて話を戻すと、私は染岡くんと仲がいいので標的にしにくいのだ。沸点が低く顔も怖い染岡くんから怒られるのは普通に考えて避けたいだろうし。私もやだ。さながら虎の威を借る狐、染岡の隣のみょうじ。そろそろ近々学年集会でも開かれてこのブームは鎮火するのだと思うけど。

「お前は平気なのかよ」
「なにが?」
「スカートめくり」

たまたま帰るタイミングが重なり、世間話をしつつ染岡くんと私は玄関へ向かっていた。まさかそんな話をされるとは思わなくてキョトンとした顔で隣の彼を見る。至極当然という顔。彼は兄貴気質で一度面倒をみると、ついつい世話を焼いていまう性分のようだ。なんと頼もしいことか。

「全然平気、一回もされたことないよ」
「ならいいんだけどよ」
「心配してくれてありがとう……まあ、染岡くんの側にいれば誰もめくろうとは思わないよ」
「それってどういう意味だ?」
「さぁ?」

染岡くんがことある事に私の世話を焼いてくれるからである。彼いわく、そそっかしくて見てられらいそうだ。今も靴を脱ぐ私を見守っている。幼稚園児かな?
染岡くんに甘える私のなんと情けないこと!けれども彼に甘えるのは、とても癖になってしまうのだ。お兄ちゃんがいたらこんな感じかな、なんて一度でも思ってしまえば、もうそう考えられずにはいられない。現代社会に疲れ果てた悲しき人間は、一度甘やかされるとでろでろになってしまうのだ。仕方ない。こんな私を許して欲しい。

「まあ、なんだ、されたら言えよな」
「うん!」

ほらぁ!お兄ちゃんっぽいじゃん!頼れる!染岡くんだって私のことを妹みたいに思ってるはずなのだ!だからOKでしょ!
トンっとつま先を叩き玄関のドアへ手をかける。思ったよりも重たい。そんな私を見かねて染岡くんが後ろからそれを引くと、ドアは簡単に開く。

「ありがとう、染岡くん」
「お前ドアくらいは開けられるようにし、」
「わっ!」

会話を遮るように強烈な突風が私たちの間を通る。なるほど、風圧でドアが重たかったんだ。

「すごい風だねぇ、前髪持ってかれちゃうよ」
「これじゃあボールも飛んでいきそうだな」
「それは困るね」

前髪を押さえて玄関から出る。おでこは見せたくないのが乙女心なのだ。それにしても台風のあとみたいに強い風だ。紅葉していた葉がバッサバサと飛ばされていく。こんな日は早く帰るに限る。

「それじゃあまた明日」
「おう、じゃあな」

左手で前髪を押さえ、右手で手を振ったその瞬間だった。今まででいちばんの突風が私を煽り、そしてスカートが盛大にめくれ上がる。プリーツが一瞬目の前に来たくらいだ。とんでもない大物が来てしまった!

「わっ!わあっ!?」

前をおさえればケツが丸出しになり、後ろをおさえれば前がまる見えになる。イタチごっこだ。どうしようもない。膝丈のスカートなのにここまでめくれるものなのか。ばたばたと私と風の攻防は続き、ようやく落ち着いた時、私は目の前にいる染岡くんに気がついた。

「……あの」

私の声に染岡くんは肩を揺らす。顔が真っ赤だ。多分私のせいなんだろうな。ジャンプだって女の人のおっぱいがぼるんぼるんと出るほどエロが豊潤している世の中で、クラスメイトのパンチラごときで顔を赤くする染岡くんのなんと純真なことか。好感度が上がってしまう。

「えーっと……風にめくられた時はどうすれば?」
「バッ!お、おれに聞くな!」
「それもそうだよね、その、ごめん」

なんだか気まずくなってしまった。そりゃ私も恥ずかしい、恥ずかしいけれどもここは私がヘマをした時のように笑って欲しかった。さっきまでの和やかな空気が嘘みたい。半ばもうどうでもいい、というかしょうがないよねという気持ちでいっぱいの私とは逆に、染岡くんはそういうことを気にするタイプなのだ。

「べ、べべ別に、お前が謝るようなことじゃ」
「なんか、変なの見せちゃったから」
「たしかにそうかもしれねぇけど」
「エッ!?」

へ、変!?私のパンツが変!?私今日どんなパンツ穿いていたっけ?いやいや、でも私そんな変な下着は持ってないし!さっきのは言葉のあやでごくごく普通の下着のはず!

「ど、どこが変なの!?」
「バカ!それをおれに聞くな!」
「だって!変だって!」
「お前から言い出したんだろうが!」
「それでも気になるもん!」

私が頑なに譲らないであろうことがわかったのか、染岡くんはそっぽを向いて呟いた。

「その、……」
「えっ?」
「ガキの癖にそんなの穿いてんじゃねーよ、スケベ!」
「あっ、え!?ちょっとそめ、染岡くーん!?」

私にそれだけ吐き捨てると、染岡くんは走って逃げていってしまった。スケベって、そんな。
スケベ発言に普通にショックを受け、とぼとぼと家に帰る。着いてすぐにパンツを確認するも、お気に入りの白地に花の刺繍の入ったパンツで、別にスケベでもなんでもな……

「ち、違う……」

そういえばこれ親戚のおばさんが中学生になったからとプレゼントしてもらったやつなんだよなぁ。いつも穿いてるボクサーっぽいやつとかじゃなくてフリルがついてレースもかわいくて、この普段とは違うちょっと大人っぽい下着。確かに、確かに違うかもしれない。でもスケベって、スケベってひどくない?



「おはよっ」

次の日、私は染岡くんに真っ先に話しかけに行く。ぷいっと目をそらす染岡くんを無視して彼の前の席に腰掛ける。ごめんね、ちょっとだけ椅子借りるね。ちゃんと来たら返すから。

「私昨日ずっと考えてたんだけどさ」
「……なにをだよ」
「ああいうのを見てスケベって言う方がスケベなんじゃないかって」
「バッ!……みょうじ!!」

染岡くんはダンッと勢いよく机を叩いて立ち上がる。照れてる。照れながらキレてる。周りの音が一気に無くなった。これ傍から見ると結構ヤバそうな光景だね……。
彼の勢いに負けじと私も立ち上がりキッと視線を合わす。すると逆に染岡くんはバツが悪そうにへろっと椅子に座ってしまった。でもそっちの方が好都合だ。私は彼の耳元へそっと囁く。

「その、私が言いたいのはさ、スケベな者同士これからも仲良くしてねっていう」
「おまッ……ほんとに時々とんでもねぇことい言うな」
「でっでもさ、私これで染岡くんと仲が悪くなるのやだなってそれで」

染岡くんはなんとも難しい顔をして、おうと返す。たかがパンツで仲違いなんて悲しすぎる。私はもっと染岡くんに甘やかして欲しい。

「でもよ、お前はちょっと気にしろ」
「えっ?」
「こうやってよく教室で言えるよな、恥じらいってもんがねーのか!」
「いやぁ、別にこれくらいは……」
「このバカっ」
「ギャッ!?」

つい口から出た言葉に染岡くんはキツイ拳骨を私の頭に落とした。鈍い音に周りから女子の悲鳴が聞こえる。ぐわぐわするがまあ、平気。ちゃんと手加減をしてくれているんだと思う。それなら殴るのはやめて欲しい。

「ちょっと染岡くん!みょうじちゃんになに暴力ふるってるの!」

遠目で見ていた女の子達が私を庇いにくる。なんと優しい子達なのだろう。染岡くんにこうやって食ってかかれる度胸すげーな。
流石に女子数人にワイワイ言われると染岡くんも強く出られないみたいだ。ちょっと怒りながらも困った顔で私を見た。染岡くんが殴るからだぞ。そんな顔して、もー……。それでも染岡くんが先生に叱られたりする羽目になるのは可哀想なのですかさずフォローを入れる。

「いや、大丈夫大丈夫!じゃれてるもんだから」
「だっ……れがじゃれてるて!?」

あっ!女子の目が!キツイ!染岡くんのバカ!すぐに怒鳴る!!
咄嗟に染岡くんの腕を組み、ピースサインまで決めて抜群の笑顔を向ける。まだまだ痛む頭はひとまず置いといて、私は大丈夫っていう格好を見せるのだ!

「愛情表現が下手なだけなんだよ、ねっ染岡くアターッ!?」

フォローは失敗、私は染岡くんのデコピンをくらい再び頭を揺らした。耳まで真っ赤だ。こういう時の染岡くんは照れてるだけなので、ちょっと放っておけば元に戻るだろう。
私の言葉に女の子達は「えっ、そういう……?」という顔をして自分達の席に戻って行く。いつの間にか時間はかなり経っていて、私も自分の席に戻った。染岡くんは3日間私の事を避けた。







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