短編 | ナノ






(ドドド捏造)


私のクラスにはロボットがいる。ロボコンとかに出てる無機質なパッと見で分かるようなロボット、という訳じゃなくて、もっと人間に近いロボットだ。遠目で見たらロボットだって分からないような……そんなロボット(あんまりロボットだって言うと彼は凄く怒る)が私のクラスメイトだ。さらに言うと私の隣の席に座っている。


「みょうじさん、これ落としましたよ」
「ありがとう、キーボくん」


名前はキーボ、という。本当の人間のように滑らかに喋る彼は入学当初からそれはもう、ものすごい有名人(ロボット?)だった。そりゃそうだ。といっても1ヵ月もするとみんな慣れていき、今じゃ普通に馴染んでいるのですごい。いや、ちょっと話が噛み合わないようなところもあるけど。


「みょうじさんはよく物を落としますね」
「そう?そんなことないと思うけど」
「こうやってみょうじさんの物を拾うのはこれで2回目です」


私にとってのキーボくんは男子とも女子とも言い難い、なんとも不思議な立ち位置にいる子だ。男子の見た目で声で僕と言うのでキーボくんは男の子なんだろうけれど、雰囲気がどちらにも属さないというか……妙に落ち着く感じというか。
彼といるのは割と気が楽だったりする。私はキーボくんのどことなく事務的な話し方がすごく好きで、よくこうやって話し相手になってもらう。


「おっちょこちょいなんですね」
「そうかな?なら、キーボくんもおっちょこちょいじゃない?」
「そんなことないです!」
「この前転んでる所を見たし」
「あれは!その、メンテナンス直後だったので……」


さて、なんとも不思議なロボットであるキーボくんがどうやって学校に馴染んだのかという話をしたい。キーボくんはとてつもない有名人、もとい有名ロボなのは今でも変わりはない。ただ皆知ってしまったのだ。キーボくんは割とポンコツだ……と。
ポンコツという言い方はおかしいかもしれない。彼のようなロボットは日本、いや世界初らしいし、テレビの取材が来ているのを見たことだってある。凄く高性能な人型ロボットなのだ。感情や意思のある人らしいロボット。だからなのだ。彼はロボットの割に昨日が皆、普通の人間並みなのだ。だから彼を珍しがる人はいつの間にか消え……気がついたらごく普通に馴染んでいた。


「一緒だよ、私たちおっちょこちょいなの」
「ううん、なかなかに不名誉です」
「いいじゃん。ふたりでおっちょこちょい同盟でも作ろ」
「イヤですよ!なんでそんな事言うんですか!そういった点は改善していくべきです!」


私がキーボくんといるのが好きな理由はもう一つある。それは真っ直ぐな所だ。キーボくんはどうしようもないくらい真っ直ぐで、嘘のつけない子だ。だから好きだ。
彼は正論しか言わない。その言葉は耳が痛い時もある、いや、むしろ耳が痛い時の方がずっと多い。だからか私は彼の言うことを信じることができる、気がする。嘘を言わない真っ直ぐな言葉はスッと心に入る。


「大体、みょうじさんはのんびりし過ぎなんです」
「そんなことないよ」
「あります!だから」
「だから?」
「友達がいないんですよ」
「えっ!」


突然の暴言に思わず目を見開いた。ウッソマジかよ。私友達いないって思われてたのか。部活もやってるし普通にいるんだけどな、クラスにもクラス外にもそれなりに。


「な、なんでそんなこと言うの……」
「だって、しょっちゅうボクと話をしてるじゃないですか」
「それがなんで友達いないって結論に」
「だって友達がいないからボクと話をしているのでは?」
「は?」


キーボくんはポンコツだ。考えることが出来る。感情がある。けれど微妙にズレている。そのズレを目に見る度にやっぱりロボットなんだな、なんて私は考える。
彼なりの心配なのかもしれない。ごく当たり前のようにキーボくんは言ってのけたし、今だっていつもと同じ顔をしている。悪いとも思ってないのだろう。


「私、友達いるんだけどな」
「ええっ!?」
「クラスのモブ実ちゃんとか某子ちゃんとか」
「いやでも」
「クラスじゃなくても部活の友達がいるし」
「じゃあなんでボクと話をするんですか!」


キーボくんは馴染んではいる。ロボットが人間の中にいると考えると、よく馴染んでいると思う。あまりロボットという感じはしない、人間ぽさがある。けれどやはり、キーボくんは人間ではないから。彼は一緒にご飯を食べれないし体育は基本出来ないし、特に水泳の授業は必ず休むし首元はぼんやりと青く光るし、なによりも絡みづらいのだ。
一緒に生活していく上で、彼は真っ直ぐすぎる。少し道をそれるだけで批判し、ロボットのことを話すと差別だと言う。めんどくさいのだ。だから……悲しいことに彼はクラスでちょっぴり浮いていた。そんな彼と話をするのは、先生と、私くらいになっていた。なんとなく彼もそれを察していたのかもしれない。


「楽しいからだよ」


ふと、人間関係に疲れた時、キーボくんの言葉が癒しになる。真っ直ぐすぎる言葉が勇気をくれる。人間じゃないロボットの彼だから。


「それに、キーボくんも友達でしょ」
「誰とですか」
「私とだよ」
「友達……そうなんでしょうか」
「ただのクラスメイトって程、私達そこまで他人じゃないと思う」
「いえ、ボクとみょうじさんは他人です」
「ああ、まあ、そうなんだけどさ」


思わずズッコケそうになる。苦笑する私にキーボくんは物好きですね、と嬉しそうに笑った。ロボットなのに人間よりも表情豊かに笑う。


「私たちは友達がだよ。うん。ずっと」
「ずっとっていつまでですか。具体的に言ってください」
「えっ!?えっと……キーボくんが壊れるまで?」
「みょうじさんが死ぬ方が早いのでは?」
「あ、そうかも。でもそれは良いね。死ぬまでずっと友達でいられるなんて、なかなか無いよ」


私はロボットのキーボくんが好きだ。恋愛感情とかでは、多分ない。それだと困る。私はただただキーボくんという個性が好きで傍にいる。嫌な思いをする時もある。それでも傍にいると気が楽で、面白くて。


「ありがとうございます」
「えっ?」
「こうやって学校で暮らしていくうちに、集団生活は無駄なんじゃないかって考えていたんです」
「わお……」
「だけど今日、無駄じゃないと思えました」
「私のおかげ?」
「そうです」


彼はもう一度ありがとうと言い、お辞儀した。顔を赤らめるキーボくんを見ているとロボットだということを忘れてしまいそうになる。もしキーボくんが人間の男の子だったら、好きになっていたのかな?なんて、考えても無駄だって分かってるのに。ふとした彼の人間らしさを感じるとそう思ってしまう。
キーボくん。わたしの友達でクラスメイトで、ロボットだ。彼は約束を絶対に守るから。私はずっと彼と友達でいられる。……友達で。








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