短編 | ナノ







「オレだって男なんだけど」

まさかこんなセリフを聞く日が来るなんて思わなかった。
漫画みたいだな、なんて思っているとミッキーは何も言わない私に、戸惑いと好奇心を一緒に煮詰めたような視線を向ける。



私は悪い女だ。
だから、学校帰りに一人暮らしの男の子の家にホイホイ行っちゃう。適当なお店でご飯を食べて時間を潰して、部屋に忘れ物をしたなんて適当な理由を言って、わざわざ夜も遅いのに取りに行く。
今日のは正直、賭けもあった。
大雪警報を知らせる通知がスマホに届く。へえ、交通機関が全滅かあ。これはもう私の方に完全に追い風モードだ。
朝、世紀の大雪が訪れるというちょっと大袈裟なニュースを見てピンと来た。最悪でも遅延すれば、もしかしたら……なんて。ちなみに明日の学校が休みになるという連絡も来た。とことん私の味方をしてくれている。

「ごめんね、泊めてもらうことになっちゃって」
「いや、仕方ないしさ!むしろこんなところにごめんって感じだよ」

もっと早くに帰せばよかった、なんて呟くミッキーを尻目に、私はガッツポーズだ。
彼は私のことを嫌っていないし、どちらかというと好意を感じる。一言でいい。好きと言ってくれればいいのに。そうしたら私はしおらしく頷いて、彼を抱きしめるのに。

「シャワーありがとう。あと、服も」

ミッキーの貸してくれたパーカーは少し大きい。体格のいい方でもないのに、やっぱり男の子なんだよなって、少しドキドキ。洗濯したばかりだからと、ちょっと赤くなるミッキーにシャワーを浴びるように促す。あ、また赤くなった。
今、私はノーブラノーパンである。
だって同じ下着つけたくなかったんだもん。もともと着ていた服はネットに入れられ、ミッキーの服と一緒に洗われている。だから、身につけるものがないのだ。ガバガバなパーカーに彼が中学の時のズボン。あ、これかがんだら胸が見えそう。……よし、あとでやろう。




そうしてそろそろ冒頭に近づく。
彼の制止を振り切って、同じ布団で寝ることになったのだ。
私が「家主が床で寝るのに、私だけ布団でなんか寝れないよ!」なんて言って。折れるのは、割とアッサリ 。
そりゃあ狭くても布団で寝たいだろうし、それに女の子までつくんだったら、普通の男子高校生なら飛びつくレベルなのかも。

「今日すっごく寒いね」

そんなことを言って背中に擦り寄ると、どくんと彼の体がはねる。反対側を向いているせいで顔は見えないけれど、絶対に顔が赤い。だってミッキーの体、熱いもん。

「え、ちょっと、ち、近くない?」
「そうかな?」

距離なんて布切れ一枚、なんてところまで引っ付くと、ドッドッドッ……と、彼の鼓動が簡単に感じ取れる。わあ、速いなあ。そんなに緊張してるのかな?
脇腹を滑らせるように腕を伸ばして、ぎゅうっと抱き寄せる。当のミッキーは「近いから……!」とか「えっと、あのさ」みたいなことしか言えなくなっちゃったみたいだ。
そう、そしてようやく冒頭のシーンに追いつく。

「オレだって男なんだけど」

体を反転させて、私の方を見つめるミッキーは、暗がりの中でもしっかりとわかるくらいに高揚している。
私は何も言わないで、ただ腕を伸ばして彼を抱きしめるだけだ。心臓、速い。きっと私もすごく速くなってる。

「こういうのよくないと思うんだけどな、なんて…」
「そうかな?」
「エッ!?だって、え、えっ!?!?」
「ひっつくの、嫌い?」
「いや嫌いじゃないけどさ!でも、」

まー……どもるどもる。
ミッキーは制止しないしハッキリと嫌とも言わない。うーん、わかり易い。
寝返って空いた距離をススス…と埋めに行くとと一瞬体が強ばってから、浅い呼吸をする。

「大体こういうのって好きな人じゃないとダメなんじゃない…?」
「私は、ミッキーならいいよ」
「は、えっ!?というか近いっていうか、オレなんかじゃなくてもっと……ッ!?」

鈍感というのは、時に残酷である。
彼はわかっているのかいないのか、計算なのか天然なのか。まるで理解出来ないのだけれど、私の好意に気づいていない素振りをする。
もともと近かった顔。唇をつけるくらいどうってことない。甲斐甲斐しく目をつぶった私とは逆に、開きっぱなしだったミッキーはぱちくりと瞬きを繰り返すばかりだ。
寄り添うなんてもんじゃない、密着した私に、彼はもう何も言わない。あ、ミッキーのおちんちん当たってる。ぐっと太ももで圧迫するとビクンッと跳ねる身体。

「ねえ、当たってるんだけど」
「それはみょうじがッ!」
「どうしようか、もう寝ちゃう?」

今度はミッキーからだった。
ただ押し付けるだけのキスなのに、私の身体はどくんどくんと、力強く脈打つ。私の腕を掴んだ手は振り解けないくらいで、やっぱり男の子なんだよなって実感する。
私が抵抗しないからか何度も何度もキスを繰り返して、にゅっと舌を入れた。なんだかぎこちなくて、でも私にはこれ以上ないくらいにドキドキする。

「今更ナシとかいうの、ナシだから!」
「……」
「あの、みょうじ?やっぱりこんな、」
「ナシっていうの、ナシなんでしょ?」

ちょっとむくれたような照れた顔が、すごくかわいい。ちゃんと男だってことわかってるよ。私より力が強くて、体格がいい君のこと、私はずっと見ていたから。







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