短編 | ナノ






こうも偶然が重なると、正直な話、陰謀やコイツの自演なのではと疑いたくなる。
けれど鼻をすすり、目も顔も耳まで赤くして泣きじゃくりながら、ひたすら腫れ上がる目もとから涙をこぼす彼女は、どうしてもそういう類には見えなくて。


「またか」
「…ッぐ、う…うう…おっおら…く…」
「おい、まともに舌が回ってないぞ。今度はなんだ、また浮気か」


はじめは偶然街中で。涙を流すコイツに出会い、クラスメイトのよしみというか、泣いている女をほうってはおけなくて声をかけたのがはじまりだった。
それからというものの俺はやたらと彼女の泣く姿を目にするのだ。昼休みに、帰り道に。今回はたまたま忘れ物をしたからと教室に立ち寄ったら。
泣く内容はいつもコイツの「彼氏」に関わる内容だった。浮気をした、殴ってくる、金をせびる…典型的なクズ男のことで、コイツはしょっちゅう目を腫らしてはワンワンと泣く。どうして別れないのか聞いても「でもね、前はとってもいい人だったんだよ。私…彼が大好きだから、支えてあげなくっちゃ」なんて返してくる。ひどく馬鹿な女だと思う。


「うっうわ…浮気の…が…っぐす…よかった…よお…」
「お前、本当に今回はどうしたんだ」
「お金が…なっ…い、から…」
「よこせと?」
「ううん……その…うっ…うう…ッからだで、かせ、いで…って…」


カアッと全身に血が巡っていくのを感じた。馬鹿だ、コイツもその彼氏も、馬鹿でしかない!なんて奴らだ!!
それでお前はどうした、まさか了承したんじゃないだろうな、きっとお前のことだから別れるなんて言わなかったんだろう、そんなことを一気に捲し立てれば、彼女はもっと泣き出して、とめどなく涙を流してゆく。
ぽろりという表現が似合わない、そう、例えば壊れた蛇口だとかそんなのが似合うくらい、どこから湧いてくるのかわからないくらい流してゆく。


「お前は…本当にそれで、幸せなのか……?」


俺のさっきまでの質問に一切答えなかったくせに、これだけは俺の目を見てはっきりと頷く彼女が憎い。どこが幸せなんだ。散々いたぶられて、いいように使われて、それで…


「っありがと、…おだくッ…わた、し……」
「お前は…」


どうしてお前はそんな、笑顔を向けられるんだ!!
何が幸せだ!何が恋人だ!こんな彼女みたいなのになるのも、コイツの彼氏みたいになるのもお断りだ!俺は、恋なんてしない。こんな風になるのは嫌だ、なんの罰でああならなくちゃいけない。何が恋だ、そんなの、馬鹿がするだけのものだ!
わかっているのに、なのに、どうしてこんなにも彼女を抱きしめたくて仕方が無いのか、俺が彼女に抱く感情は、これは。認めた瞬間に俺は馬鹿に成り下がり、そして幸せとは遠い遠い道を歩むことになるのだろう。俺はそんな勇気、持ち合わせてない。
だから俺は、恋なんて、







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