短編 | ナノ







友達以上恋人未満と言う言葉は、あたし達の関係を上手に表していると思う。
どうでもいいことで電話をしたり、宿題を見せ合ったり(といっても大抵はあたしが見せてあげているのだけれど)女友達には言えないようなことを相談したり。友達の枠に入らないほどあたし達は仲が良いと思うし、けれど恋人という訳ではなくて。


「あれ、飛雄じゃん?なになに部活帰りって感じ?」
「まあな、おまえは?」
「フツーにテスト勉強」
「テストまでまだあるのにか?」
「そんなこと言ってるから飛雄はおバカちゃんなんだよね、テスト3週間前から要点のまとめ2週間前に課題を、1週間前にはテストの勉強だけをする。これが高得点のための布石ってわけ」


わかり易く眉をひそめた飛雄に笑って校門を出る。こうやってばったり帰りに会ってそのまま一緒に帰るのはお決まりのパターンだ。テストの話題に飛雄は嫌そうにしているけれど、実際ちょっと心配なのだ。飛雄、いつも寝てるし。テストの点はやっぱり低いし。
部活大変なんだろうけどさぁ、テストも、やっぱ頑張って欲しいじゃない。補修とかなったりしたらこうやって一緒に帰るなんてできないだろうし。あたし、飛雄とこうやって意味も中身もない話をしてるの、結構好きだからなぁ…それが減るのは、やだな…


「あたし飛雄の勉強みてあげよっか?」
「ハァ?なんでおまえが」
「だって飛雄いつも寝てるし、テスト危うそうだし」
「別にいらねぇよ、大体テストまでどんだけあると思ってんだっての…」
「そんなこと言ってるから悪い点を取るんじゃないのかな…」


なんか、先が思いやられる…




それからもう少しして、いつも教室で寝ていたくせに、飛雄は勉強をはじめるようになった。なんと、自主的に。驚いて話を聞けばバレーがうんたらかんたら言っていたので、飛雄らしくて思わず笑うと、ギッと睨まれる。おー怖っ!あたしが言ってもやらない勉強もバレーだとやるようになっちゃうんだもん、ホント、バレー馬鹿。


「ね、あたし勉強教えるよ」
「いい」
「だって飛雄バレーのやつ行きたいんでしょ?テスト頑張らなきゃなんでしょ?なら、」
「いいって言ってるだろ」


冷たくて鋭い言い方。あたし、何か悪いことしちゃったかな。ううん…そんなも覚えないしどうしてこんなに強い口調で言われてるのかもわからない。あたしたち友達じゃん。今まで散々ノート見せてやって聞かれたとこには答えてあげて、そういう事してきたじゃん。なんで急に、そんなに拒否をするの?どうして……


「…飛雄」
「なんだよ」
「ごめん、あたしなんで飛雄がそんな怒ってるのかとか、わかんないんだけど」
「別に怒っては」
「怒ってるじゃん!……あー、ごめん、あたしが理解してないだけで飛雄になんか酷いことしちゃったんだよね、多分。ホントごめんね」


あたしの言葉に飛雄はとても驚いた顔をして、そしてフイッとそっぽを向いて教室を出ていった。もしかしたら、友達と思ってたのはあたしだけなのかもしれない。飛雄にとってはよく話すクラスメイト、みたいな、そんな位置づけで。それって、なんだか悲しいんですけれど。飛雄さん。




「…あ」


飛雄と喧嘩?をして話さなくなって。更に日にちが経ち、テストまで近づいたある日。たまたま友達から借りた辞書を返しに彼女のクラスまで行けば、なんと飛雄がいるじゃないか。しかも、勉強教わってるし。…しかも、女の子、だし……ッ


「……辞書、ありがとね」
「いいよ別に。あ、それより数学なんだけど…」


友達がテストについての話をしてるけど、全然頭に入ってこない。ダメだ、気になる。飛雄め!あたしの誘いはことわって、その女子のは受けるのか!!そんなの…そんなのさあ……せつないだろ、ばか……






「あ」
「…」


下駄箱にため息を落とし上履きを履き替えると、後ろから聞きなれた、けれど最近は間近で聞くことのなかった…飛雄の声が聞こえた。黙って振り返りもしないあたし。いいのだ。飛雄なんて、あたしは知らない。


「待てよ!帰りなんだろ!」
「…そうだけど?」


ちょっと冷たくなってしまった。…いや、いい。飛雄だってあたしに冷たくしたのだから、少しくらい傷ついた方がいいのだ。バタバタと音がして、それからすぐに背中に衝撃がくる。


「ちょっ…!?」
「…いくぞ」
「ゴーインでしょ…」


隣に立った飛雄はあたしの背中をグイグイ押して、前に無理やり進ませる。まだ怒ってるんだからね。仲直りしたいってならそれなりの対価が必要なんだから。


「、悪かったな」
「…は?」
「おまえに、悪いこと言ったって」


校門を出てすぐ、ぽつりと飛雄は口から言葉をこぼす。悪いことって認識はあったのか…


「正直イライラしてたっていうのもある、けど」
「けど?」
「おまえにカッコ悪いとこあんま見せたくねえっつーか…」
「…飛雄」


格好つけたくて、勉強を見なくてもいいって言ってたのか。ダッサイよ飛雄…あたしあんたがお馬鹿ちゃんなの知ってるのに…


「なら、なんで他の女の子には教わってたの?」
「なッ…んで!知ってるんだよ!」
「むしろなんで知らないと思ったのかな?…彼女、とか言わないよね?」
「違うわボケ!」


違うのか。そうか、よかった…!ホットするあたしを他所に飛雄ったらすごく顔を赤くして慌てて、面白い。あー…久しぶりに楽しい。ピリピリしたテストのことも忘れられそうな……


「飛雄!」
「な、なんだよ」
「勉強しよう!カフェとかで!教える!」
「だから、」
「あたしが飛雄にイイところ見せたいの!」


だから行こう!小突いて言うと飛雄は恥ずかしそうに、でもちょっと嬉しそうに仕方ないと言った。カッコ悪いとこ見せらんないから、頑張らなきゃ。…あの、飛雄が教わってた女の子よりも上手に教えられますように。
いつからだろう、飛雄があたしの中でこんなにおっきくなっていたのって。いつからこんな、あたしは…


「…よろしく頼む」
「ん、任せてよね」








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