短編 | ナノ







正直、悪かったと思う。
三日前から喉の調子がおかしくなり、昨晩に微熱が出て、朝には微熱より少し高い程度の体温を叩きだした私は大事をとって学校を休むことにした。普段元気が有り余っている人間なので仲のいい友達からは大丈夫かとメッセージが届き、目が覚めたらそれに返す、ということを繰り返しながらまったりと体を休める…かなり贅沢な一日を送る私。そんな中、一本の電話が入った。


「もしもし?」
「…起こしちゃったりしたァ?」
「ううん、ご飯食べ終わったところだったし平気だよ」


荒北くん…一週間ほど前にお付き合いを始めた、そう、彼氏である。どうやら私を気遣ってお昼休みに電話を、ということらしい。なんて優しいんだ…熱があるからか余計に優しさが身にしみる。


「ッたくよォ!なんでこんな変な時期に風邪ひいちゃったりするわけェ?」
「返す言葉もございません…」
「健康管理がなってねェんじゃなァい?」
「はい、その通りでございます…」


変なやりとりに笑いをこらえながら返す。どちらにせよ、荒北くんは私を気遣ってくれてるのだからかわいいもんだ。ごめんねと、謝ろうとはじめの三文字が出たところで、クッと喉の奥が詰まる。


「ン?オイ、どうし」
「ッゴホ!…うえッ、だ、だいじょッゲホ……」
「大丈夫じゃねェだろ、オイ!おまえホントにヤベェんじゃねェの!?」
「いや、ほんと…ッゥオッホン!ゴホッぐえッホゴホゴホ………あれ?」


突然訪れた咳のピークに対応していると、少し慌てていた様子の荒北くんの声が突然途切れた。何があったんだ…電波悪いのかな?気にはなるけれど咳は止まず、ゲホゲホしてると騒ぎを聞きつけたお母さんにそのまま病院に連れてかれる。せめてケータイを、と持って行こうとする私に早くしなさいと急かす声。いいや、持って行ったってどうせ使わないし。







「大変申し訳ございませんでした…」
「ホントだっつーの!」


病院から帰り荒北くんのことなど忘れて眠りこけた私が目を覚ますと、そこには汗だくの荒北くんが居りましたとさ…
どうやら咳き込んだと同時に通話を切ってしまったらしく、あの状態で突然切れたものだから気が気じゃなかったらしい。放課後部活を終わらせて、速攻我が家に来たのだという。申し訳ない…


「…見舞いの品」
「え?…りんごだ」
「イヤなら福ちゃんにやるから食わなくてイーヨ」
「食べる!食べるよ!」


駅前の八百屋さんの袋に入ったりんごに思い切りかぶりつく…前に荒北くんの手により抜き取られる。な、なにがしたいのよ荒北くん。


「そのまんま食うアホがいるかボケェ!」
「だって!」
「これくらい剥いて食えっつーの…」


荒北くんが見覚えのある、私の家の果物ナイフを取り出し(いつの間に持ってきたんだろう…)りんごに刃を入れる。さくり。特有のいい音。それと一緒に荒北くんのうめき声も聞こえた。


「もしかして指、切った?」
「おう、けど待ってろヨ!うさチャンにしてやるしィ?」
「いいよ!指切ったならもういいから!」


指切ったっていうのにしれっと皮をむこうとしている荒北くんを慌てて止めようとするも、彼は依然としてナイフとりんごを握ったままだ。別にまるごと食べるからいいよ!というか荒北くん絶対にウサギのりんごとか切った事無いでしょう…


「荒北くんいいよ…りんごに血が滲んでるし」
「ゲッ!?」
「あとでお母さんに絆創膏もらってくるね。あとりんごはそのまま食べるよ」
「ンなもんイーヨ」
「でも!」
「その代わりと言っちゃなんだけどネ…くわえてさ、舐めてくんナァイ?」
「…えっ?」


舐めるって、それはつまり、指を…くわえて?指であってるよね?なんか含みのある言い方だからドキドキするんですけれど、荒北さん…

「エッチ」

にやにやした荒北くんは私のくちびるに指を押し付けて、そのまま咥内に滑り込ませてゆく。エッチって、やらせようとしてくる荒北くんだって大概じゃない。いいもん、バイキン入っちゃっても知らないんだからね。
舐めろと言っても私は誰かの傷を…というか指を舐めたことはないし傷口を舐めたら痛そうだ。できるだーけ優しく、チロリと舐めると荒北くんがびくんとはねた。


「えっほへん!ひひゃい!?」
「痛くねェから喋んなアホ!」
「へほ…」
「お前は黙って舐めてりゃいいんだヨ」


……何そのアダルトビデオみたいな発言。ちょっとカチンときた…荒北くん本人が舐めろっていうんだからね!仕方ないよね!思いっきりやってやる…


「んッ…」


唇の空いた隙間からぴちゅ、と水音が聞こえようが私が少しえづいて声が洩れようがお構いなしに舐めて吸って、荒北くんの指を弄ぶ。口の中、血の味がする。荒北くんの血はなんだか私の血とは違う感じがして不思議だ。荒北くんの血は私より濃そうだなぁ…運動やってるし濃くて鉄分も多そう。あ、貧血の時は荒北くんから血を貰えばすぐに治っちゃうんじゃないかな…


「なまえ」
「ん?」
「も…イイヨ」


ぬちゃあ…と荒北くんが私の咥内から指を抜き出す。舐めろと言ったりいいと言ったりワガママさんだ。荒北くんの指は私の唾液でふやけていて白っぽい。ちょっとやり過ぎちゃったかな。


「え、なに、フェラテクやばくね?なに、練習とかしてたワケ?」
「フェ…は、はぁ!?しないよ!するわけないよ!」
「へえ…それでねェ…フゥン…」
「荒北くんなんか怖い!怖いよ!?」


ち、近いうち今度は指じゃないものを咥えさせられたりして……ありうるよう……。
熱もあってかくらくらする体をベッドに寝かせ、ふと忘れていたりんご(荒北くんの血液つき)が目に入る。うわ、もう褐変してる。早く食べなきゃ。あー、と口を開ければ荒北くんが親鳥みたいにりんごを食べさせてくれる。とりあえず今はもう、寝よう……。








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