「佐藤はいるか」

ざわ…ざわ……空気が変わるのをこんなにも感じふことになるとは、思ってもみなかった。手から古典の教科書が抜け落ちる。だって、また話しをすることになるとは思わなかった…から。

「あの、なにか…?」

そういえば前もこんなことを彼に聞いたような気がする。教室の入口近くまで移動し、背の高い彼を見上げる。これも前と同じだ。ただ今回は、彼の顔をしっかりと見ることができた。大人っぽい……というかまんま大人だ。

「名前を伝えていないと思ってな」
「あっ…ああ!」

たしかに私は彼の名前を知らない。でも、だからって名前を言いにわざわざこんな遠いクラスまで来るなんて…

「真田弦一郎だ」
「はぁ…佐藤まやです」
「知っている」
「そだね…」
「それでは俺は戻ろう」

ってほんとに名乗りに来ただけ!?なにそれ!?他に話すこともなく?名前言ってはい、さよなら〜ってか!?やかましいわ!

「他に話すことないの!?」
「なに?」
「あれっ!?……なんでもない、あの、ごめんなさい…つい心の声が…」
「話すことと言われてもだな…俺は何を話せばいい」
「え?」
「テニス部の副部長をしている」
「えっと」
「佐藤は演劇部だったな」
「う、うん……あれ?なんで知ってるの?」
「昨日のオリエンテーションで出ていただろう」
「よく私だってわかったね…うん、そうなの、演劇部の部長をやってて。…頼りないこと限りないのだけれど…」

たしかに話ってこれだけ!?とは思った。でも言うんじゃなかったって後悔てる。切実に。
真田くんはどうやら、それなりに有名な人らしい。ちらちらとこちらを伺っている視線を感じるのは、多分彼のせいである。舞台で浴びる視線は好きだけれど、こんな視線を受けるのは…少し、困る。

「たまらん演技だった」
「…え?」
「佐藤のクラス、次は古典か。俺もそろそろ戻ることにしよう」
「あ、あの」
「では」
「ちょっ真田くん!えと、その、あっありがと…?」

頭がくらりとした。


prevnext

サイトTOPへ
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -