「先輩、新入生入ってくれますかね?」
「…入ってくれるといいね…」

あれから次の日。私は舞台袖にいた。新入生オリエンテーションと名付けられたこの日は、まるまる一日を使って施設の案内や決まり、部活の説明などをしたりする日である。そして、私の所属する演劇部の存続が決まる日でもある……

「次ってどこだったっけ?」
「テニス部ですよ、テニス部。ほら女子たちが騒いでるじゃないですか」
「わ…ほんとだ…」

遠目から見ても顔が整っている軍団がずらっと並び、演説をしている。彼らが着ている黄色のユニフォームは壮行会なんかでもよく見る物だ。レギュラーの証とか、そんな感じなんだろうか。

「あ…」

昨日の彼もいる。帽子をかぶっていて、やっぱり顔は良く見えないけれど、確かにあの彼だ。
…そういえば、私は彼の名前を聞いていなかった。今思えば人に名前を聞いておいて自分は名乗らない、なんてちょっと失礼だ。今度あったら名前を……いや、そんな機会はない、よね。クラスも違えば名前も知らない、話す機会以前に、私と彼はほとんど他人なのだから。

「……ぱい……せんぱいっ!」
「あっ!?え、ええと…?」
「次!次、私達の出番ですよっ!!」
「やだっ!もうそんな時間!?あーっと、えーっと……劇、楽しんでいこう!」

バタバタと舞台に出た私達は紹介用の短い、ほんっとに短い劇をして、舞台を降りた。部長の割には説明を後輩に任せたり主役を後輩に任せたり……頼りない限りだけれど。後輩たちのスピーチの甲斐あってか、部員が増え、存続の危機はなくなったのだった。











「演劇部だったのか…」

演技についての知識は俺はほとんど持ち合わせていない。あるとしても2年の時に学園祭で演じた、ズブの初心者が持ち合わせた付け焼き刃程度の物だ。そんな者が見ても、主役でもないというのになにか光る物があるように感じた。
佐藤まや。
俺が彼女をそう思うのは始業式の日の朝の出来事をまだ引きずっているからなのか。それとも、

「へー、佐藤って演劇部なのか」
「なに、ジャッカル知り合いでもいるの?」
「知り合いって程じゃないけど…あ、あの右の子。同じクラスのやつで……」
「ジャッカル」
「ん?」
「校庭10周だ。いいな」
「ちょっ急になんで!?」
「20周」
「横暴すぎだろおい…」


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