「あの…失礼します…」


3年生になって数日が経った。
新しい教室はまだ馴れないし、部活の勧誘やらなんやらで、ほとほとに疲れている…というのが現状。
ふぅ、と漏れた息は周りの音にかき消されてしまった。

新しいワークをA組まで届けて欲しい、と言われたのは昼休みが半ばまで来たところだった。選挙管理委員という楽そうな委員会に入った私は、やはり楽そうだから、という理由で国語係という…いわば国語に関する雑用をする係を押し付けられてしまったのだ。

「国語のワーク、えと、ここにおいておきまー…す……」

A組に入り教卓にワークを置く。何人かが私に気づきお疲れ様、と声をかけた。同じ構造の筈なのに、A組とI組では全く違う雰囲気に感じる。早く教室に戻って少し寝よう。そうすれば次の時間に居眠りをする…なんてことは防げるだろうし。

「…まて」

どきりとした。ぼんやりとしていたぶん、後ろから聞こえた低い声が、妙に透き通って聞こえた。

「え、えっと…私?」
「他に誰がいる」

ちょっぴり高圧的だなぁ。振り返るとあの日の…始業式の日の朝、後ろにいた男の子がいた。近くで見ると身長差がかなりある。高い。首が痛い。いやホントなんだこれ!?めっちゃ高い!?自動販売機くらいあるんじゃないの!?

「あ!ええと、なにかな…?」

いけないいけない。ついまじまじと見つめてしまった。ちょうど逆光になっていてどんな顔をしているのか良く分からないけれど……。

「名前は」
「はい?」
「お前の名前は、なんと言う?」
「え?な、名前?…佐藤まや…だけれど…」

制服を着ていなければ、彼はまるで先生みたい…だと思う。話し方とか、まんまそんな感じだし。

「そうか、佐藤…まや……」
「ええと…それで、私になにか?」
「いや、なんでもない」
「へ?あ、ああっ!?ちょっと!?」

なにがしたかったんだろう…?彼はそのまま私の前からいなくなり、私はひとり、A組の教室で立ち尽くしていた。

「わけがわかんないよ…」

A組を出て、C組の前まできた時に、後ろから「たるんどる!」という叫び声が聞こえ、眠気が覚めたのは言うまでもなかった。


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