(…あ)

曲がり角の先によく見知った顔がある。真田くんだ。クラスが遠いからこうやって会うことは少ないのに、今日は幸先がいいぞ。真田くん、と声を出す前に手を振る前に、びくりと体が震えてその場に固まってしまった。あの真田くんが、女の子といるじゃないか。何かを話しているみたいだけれど遠くて聞き取れない。

「まやちゃん?」
「えっ!?」

突然名前を呼ばれたものだから思わず大きな声が出た。声の主はクラスメイトで移動教室に行かなくていいのか、という内容だった。そうだよ、早く行かなくちゃいけない。遅れたらうるさい先生だもの。

「今行くから!」

なんだか怖くて真田くんの方は見ずに彼女に駆け寄る。それなのに彼が私の方を見ていてくれたらいいな、なんて考えてしまうのは、なんというかアホらし過ぎて滑稽で。いびつな笑顔を向けたからか心配そうな顔をするクラスメイトを急かして教室に向かう。
真田くんの顔が、私と話している時と違うのが悲しくて切なくて、少し泣きたくなる。…慢心してたのかな。ジャッカルくんが彼が話す女子は私ぐらいだと話していたから、真田くん関連で女の子の浮ついた話を聞いたことがないから、彼が、たとえ友達だと言う意味だとしても、好きだと言ってくれたから。私は彼にとって特別なのではないかと…勘違いして…いたのでは……?





なんかだか私って、おかしい。前の私ってどんなだったっけ?こんなにうじうじと一つのことで悩むような人間だったっけ。わからない。わからない…けど…

「あー!!」
「部長いいかんじです!腹筋の達人ですね!」
「ちょっと!修行僧にッ!でも、なろうかな!ってね!」

煩悩は断ち切って部活に集中しよう。せっかく主役になれたのだから!ストイックにやるべきでしょう!うん!!ノルマの回数を早々に終えたがガンガン腹筋をこなす私に後輩の目が眩しい…ひたすらすごい!すごい!と褒められるのは悪い気がしないな、えへへ…よし、この調子で真田くんのことなんてわすれて…わす…れ……

「うおおん!!」

忘れられないから辛いんじゃこんちくしょう!!!




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