私がどんな気持ちになっていようが時間は進んでいく。あれよあれよと気がつけば私は帰りのHRの真っ只中だった。保健室からここまでの記憶がいっさらない。真田くんはちゃんと教室に戻れただろうか。大丈夫だよね、元気そうにはしていたから。

「起立、礼」

ありがとうございました、と慌てて立ち小声で言う。ありがとうもなにも話、全く聞いてない。部活行って手首のことを話さなくちゃ。今日は学園祭のことについて話しがあるのかな。今は真田くんのことを忘れて部活に取り組もうじゃないか。間違って捻った方の手でカバンを掴んでしまい声にならない悲鳴が出た。…部活できるよ…ね?







「おっちょこちょいにも程があるわよ?」
「はい…」
「まだ本番まで日もあるし、いいとするけど…もう怪我はしないようにね。特に顔。顔は女優の命です」
「はい…すみませんでした…」

漫画で聞いたことのあるようなセリフを言った先生にもう一度謝り、台本をもらう。でかでかとタイトルが印刷された大本の中身を見ると女探偵が事件を解決しちゃう話のようで、後半に行けば行くほどセリフが長くなる。これ覚えられるかな…

「わ、先輩ラブシーンあるじゃないですか!」
「え!?」
「ほら、最後の方に抱き合って愛を囁き合うシーンが…」
「!?」
「でも相手私ですから安心してください」
「驚かさないでよ…」

相手が女の子だからいいもののラブシーンなんて困る。愛を囁き合うって言ってもそんなことしたこともないし行ったこともない。大体告白をしたこともされたこともな…いよね、うん、あれは違う告白じゃない。違う違う違う…

「ちょっと先輩、そんな顔赤くしないでくださいよ」
「あ、赤くないよ!」
「赤いですって。キスシーンがあるわけでもないし女同士ってのに先輩照れすぎ!ウブウブじゃないですか!」
「きっ…!?」

その話題はタイムリーすぎるっていうか…ああもう!真田くんのことは忘れて部活に専念しようと思ったのに、さっきから真田くんのことばかり考えてる。もういい。いっそのこと真田くんばかり考えていたらその内消えるんじゃないか。逆転の発想的な。
後輩の冷やかしを聞き流して、真田くんの顔を思い出す。真田くん、はじめの頃は怖かったけど今じゃあの顔が安心するんだよね。男子の中では優しい方だし、真田くんとの話って普通の人とは違う感じで面白い。それに真田くんのこと結構好きだし…というかこれはもう本当に

「好きかもしれない…」

友達じゃなくて、男の子として。





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