髪を直しながら先生に勧められたソファに二人、向き合って腰をかける。のこり30分で授業が終わるけれど、先生の行為に甘えて休ませてもらうことにした。
ちゃんと安静にしてるのよ、なんて残して先生は職員室に向かって出ていく。どうやら修学旅行についての打ち合わせがあるようだ。視線を先生の出ていったドアから真田くんに移すと、バチリと目が合う。 こうやって目が合うのも久しぶりな気がする。

「真田くん、授業をサボるなんてワルだね」
「何を言うか。俺は先生に言われ安静にしているだけだ。佐藤もそうだろう」
「…風紀委員長のくせに」

私がちょっぴり悪い顔をして言うと、真田くんはあっけからんと返すので、面を食らってしまう。真田くんはきっと本当にそう思っていっているんだろうなぁ。サボっていると思っていたのはどうやら私だけみたいだ。

「佐藤は俺が風紀委員だと知っていたのか」
「知ってたけど…」

生徒総会で真田くんが風紀委員長として壇上に立っていたのを思い出す。ピンと上から糸で釣られてるんじゃ、なんて思うくらい背筋を伸ばして紙も見ずハキハキと話す真田くんに関心した記憶がある。

「そう、か…」
「えっと…ダメだった?」
「いや!そうではない、そうではなくてだな!ただ、なんというか…嬉しかったのだ」
「あ、え、えと…そっか…」

ちょっと顔を赤くする真田くんに、パチンとリンクするものがあった。私のことを友人として好きだと言った彼、そして、落ちるとき、私と、

(キス、した…)

思わず唇に手をふれる。そういえば私、真田くんと…ぶわっと頭に広がるあの光景に、顔が熱くなる。少しうつむいて目だけで真田くんを見ると、いつの間にか私をまじまじと見ている。真田くんは悪くない、悪くないんだけれどもっと顔が熱く赤くなっているのは、目の前にいる彼のせいだ。
あれは事故だし、何より一瞬だったし、ノーカンといえばノーカンなのかもしれないけど。私にとっては初めてなのだ。もしかしたら真田くんだってそうかもしれない。それって、すごく酷いことをしたんじゃ…?

「さ、真田くん…ご…ごめ…」
「む?何がだ?」
「あっあの、お、おちた、とき…その、」
「佐藤、もう気にしなくていいと言っただろう」
「そうじゃなくって!その、き、き…」
「き?」

キスしたこと、なんて、言えない。
ここまで言えばわかるかな、なんて思ったけれど真田くんはそうもいかないみたいで、訳のわからないって顔をしている。に、鈍い…そんなのすっかり忘れちゃった、みたいな顔しなくても……ん?忘れ、た?もしかして真田くん本当に忘れちゃっていたりして。

「さ、真田くん、つかぬことを聞きますが私が落ちてきた時のこと…覚えてる?」
「…すまないが、よく覚えていない。佐藤か落ちてきて受け止めようとしたのは覚えているのだが…しかし、佐藤ひとり受け止められないなど俺もまだまだだな」
「いや、そんなことはないと…思う…」

適当な相槌をうって、手で口を抑える。でないと、思わず言ってしまいそうになる。私がもやもやして、顔だって見れないって言うのに、真田くんは、真田くんは、

(覚えていないんかい!!)


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