未だかつて真田くんの倒れているところを見たことがあったであろうか、いやない。肩を掴んで揺らしてみても、名前を呼んでも無反応だ。血の気が引いていくのがわかる。も、もしかして…

「さ、真田くん…もしや死んでっ…!?」
「いやそれは流石にないでしょ」
「心臓マッサージ、とか!?AED!?気道確保!?」
「ちょっ!ちょっと落ち着いてくださいって!」
「どどどどうしよう、えと…」
「切原ッス、切原赤也。たしか佐藤先輩ですよね」

アンタが慌ててどうするんスか、と切原くんに言われてハッとする。確かにその通りだ。私が慌てたところでどうにかなるわけでもないし、むしろ現状が酷くなる。どうして私の名前を知っていたのかは知らないけれど、初対面である後輩の前でこれ以上の失態を晒すのも嫌だ。大きく息を吸って、姿勢を正す。


「切原くんごめんね、あなただって驚いてるのに」
「いや、俺は別にいいんすけど…ただ」
「ただ?」
「副部長の彼女って思ってたよりそそっかしいなぁと……あっ!これ副部長に言わないでください!鉄拳は嫌なんで!!」
「なっ何を言ってるのかな!?わ、彼女じゃないし、そもそも私と真田くんは」

…私と真田くんは?そこまで言って息が詰まる。思わず切原くんから視線を外すと、横たわる真田くんが視界一面に広がった。そっと、真田くんの手に触れる。ほんのり温かいそれは、骨ばっていて私とは全然違うものだ。
私と真田くんは友達…友達、だよね。彼だってそう言ってくれたじゃんか。私だってそう思ってる。なんだか心が揺らいでしまうのは、こういう冷やかしや真田くんのアレとか、そんなことで妙に意識していまうからだ。

「ってこんなことしてる場合じゃない…とりあえず、保健室だよね。私運んでくよ」
「は?先輩何言って、」

真田くんの腕を私の首にかけ、脚と腰に手を回し思い切り力を入れる。要はウエイトリフティングだ。腰から力を入れれば真田くんくらいなら持ち上がる……はず。女子らしからぬ格好をしているけれど、今はそれどころじゃない。
結論から言うと真田くんは重い。めっちゃ重い。なんとか頑張って腰あたりまで持ち上がったものの歩ける気がしない。ここから保健室が近くてよかった。歯を食いしばって、もっと鍛えておくべきだったと今更後悔する。

「ふんっぬぁあああ!!」
「ファッ!?」
「も、もうちょっ…と…!!」
「……佐藤?」
「え?あっさなだくぅわあっ!?」

突然真田くんに名前を呼ばれたため思い切りバランスを崩し…

「ぐえっ!?」

私の上に真田くんが落ちてきたのでヒキガエルよろしくな声がでる。私と切原くんの声で目が覚めたらしい真田くんは、よく状況がわからないのかボソホソと何かをつぶやいている。下敷きにされているから顔が良く見えないけれど、でも、まぁとにかく

「さ、さなだく…ん…気がついて、よかっ…た…」
「状況がいまいち理解できないのだが、一体俺は何をして」
「副部長!それよりどいてやってくださいよ!佐藤先輩顔色ハンパねぇッスよ!?」
「佐藤?…!! すっすまない!!」

慌てて私の上から退くと、真田くんは手を目の前に差し出した。ゆっくりとその手に手を乗せると、引き上げてくれる。力強いなぁ、真田くん。真田くんの手は私がさっき触れた時よりも温かくってがっちりしている。

「あの、」

続きをいう前に予鈴のチャイムが遮った。切原くんが慌てて俺行きますね!なんて言ってこの場から消える。私達二人は、ただ手を取り合い、その場に立っているだけだった。


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