真田に言ってやれ、なんて言われたって…。私は真田くんの連絡先を知っているわけでもないし、これを言うためだけに真田くんのクラスへ会いに行くっていうのも気が引ける。

「はぁ…どうしよ」
「佐藤さん、ご機嫌斜め?」
「え!?あ、先生…」
「あのね佐藤さん。あなたにいいお話があるんだ」
「私に、ですか?」

そうよ、と言って微笑むのは演劇部顧問の先生だ。いい話といっても多分夏休みの計画書とか、そんな物だろうな…筋トレとかが主なメニューなんだろうな…

「今度の学園祭だけれど、佐藤さんに主役をやってもらおうと思うの」
「……え?」






思い出しても顔がにやけてしまう。へへへ…劇の、主役かぁ…。今まで私が主役をしたことはなかった。きっと先生も卒業だからと花をもたせてくれたんだろう。同情にも近い先生の指名だけれど、嬉しいものは嬉しい。いつもは辛い階段もルンルンでスキップしながら上っちゃう。

「ん?佐藤か?」
「えっ?真田く、あっ!?ひゃああっ!?」

まさか、こんなところで話しかけられるなんてッ…!
突然後ろから声をかけられ、振り向きざまに浮かれきっていたからか、私はそのまま足を滑らせた。フライアウェイ…そんな言葉が頭をよぎった。私のバランス感覚の悪さを呪ってしまう。あ、ダメだ、これ多分真田くんに衝突する。こういう時って視界がスローモーションになるなぁ。ああ、真田くん…受け止めようとしないで早くそこからどいてくれ…絶対頭突きかましちゃうから…
どんどんと近づく距離と、クリアに聞こえる心臓の音と、真田くんと、落ちていく私と、そして来る衝突と、

(…え?)

確かに頭突きをしちゃう、なんて思ったけれど。こんなうまく、噛み合うものなのか。一瞬だけれど、私の唇と真田くんの唇が重なる。真田くんが目を見開いく。きっと私も、こんな顔をしている。ああ、なんだか…頭の中が真っ白だ。

「い…った……」

思い切り真田くんにダイブした私は、その勢いのせいか真田くんごと思い切り倒れた。真田くんを下敷きにしても痛いものは痛く、咄嗟に手をついたからか両方とも手がジンジンする。真田くん押しつぶしちゃって申し訳ない。

「あ、あの、真田く…」

ん平気?という言葉は上から聞こえる「ええーっ!?副部長!?」という声に言い切る前にかき消された。見上げると黒髪の男の子がうわー!とかマジかよー!なんて言いながら目を泳がせてはオロオロしている。
ばちり。私の視線と彼の視線が噛み合うと、今度はあーっ!なんて叫びながら私に指を突き刺した。

「副部長とラブコメするなら他所でやってくださいよ!」

かあっと顔が赤くなっていくのがわかる。もしかして、見られていたの?心臓がバクバクする。うわ、副部長のラブコメとか…マジ見たくなかった…なんて呟いてる彼をおいて一人、今だ何も言わずに目をひん剥いた真田くんの上から降りた。…目をひん剥いた…?

「真田くんだいじょ…うぶじゃない!?ちょ、さ、真田くん!?真田くーんッ!!?!?」




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