「…あの、どちら様で…?」

真田くんと別れ、ふられてしまった飲み物たちを抱えながら教室に戻ると、私を見つけたジャッカルくんが私に手を振った。なるほど、今日はジャッカルくんとお昼の日か。がちゃん、と私の机に近くの机をひっつけるジャッカルくん……と、謎の赤い髪の毛の男の子だ。ガム食べてるけどお昼はどうするんだろう。

「あれ、覚えてない?」
「……ええっと…?」
「ほら前に佐藤も話しただろ、丸井だよ」
「…ごめん、私覚えてないや…なんとなく顔は見たことがあるんだけど…」

前にジャッカルくんとお話した時にいたような、いないような…?更にいうとジャッカルノート事件(と名付けることにした)の時にもいたような……?この赤い髪の毛は目に付くからか記憶に引っかかるところがある。

「ブン太、丸井ブン太。テニスやってる」
「はぁ…」
「はぁ…じゃねぇだろぃ。この流れだと名前名乗るってわかんだろ?」
「…ねぇジャッカルくん、この人なんか強引じゃない?」
「悪い佐藤、名乗ってやってくれ」

ジャッカルくんとこそこそやっていると、まだなの?と催促が飛んでくる。

「佐藤まやです、演劇部に入ってます」
「最初っからそういえばいいのによ」

何だこの人、ちょっと感じ悪いなぁ。ちらっとジャッカルくんを見ると困った顔をして謝ってくるので、なんだか申し訳ない。すみっこがへこんでしまった野菜ジュースにストローをさし、残りを机の上に並べる。この量飲み切れるかな…

「なあ」
「…なに?」
「その量全部飲むつもり?」
「…別に、丸井くんには関係ないと思う」
「だからって3本は多すぎだろ。女子としてそれはねぇし」

しょっ…初対面でなんでここまで言われなきゃならないのかな!?野菜ジュースに口をつけながら丸井くんを見ると、菓子パンの袋をあけながらバカにするような顔でこちらを見ている。ぶちん。そんな音が聞こえた気がする。普段はこんな、人に怒るってこと私は多分ない。でも今回は違う。さっきの、真田くんのモヤモヤもあってか、流石にイラッとする。

「お、おい佐藤」

ジャッカルくんの制止も聞かずに、ずるるっと野菜ジュースを飲み干し、パックを握りつぶしながら拳で机を思いきり殴りつけた。痛い。手も痛いし周りからの視線も痛い。顔がぴくぴくしてる。私は今どんな顔をしているのだろうか。ひきつった、本来ならとても他人に見せられるようなものではないのだけは、わかりきっていた。

「…あのさ、そんなこと言うなら、自分のクラスに戻ってご飯食べたら?」
「はあ?なんでそうなるんだし」
「私は、こんなこと言う人と一緒にご飯食べる趣味はないし…それに初対面なのにすっごく失礼じゃないかな?大体丸井くんはなんでここにいるの?ジャッカルくん?なら私関係ないよね?二人でどっか食べに行けばいいんじゃない?」

よくもまあ、こんなにセリフが出てきたもんだ。噛まずに言えただけ良かったと思いたい。ここで噛んだらアホみたいだ。ごめんね丸井くん。確かにこう思ってはいるけれど、少し八つ当たりも入ってる。ちょっとだけ機嫌が悪いのだ。

「お、お前…」
「…なに?」
「よく一息で言い切れたな、それ」
「そっちかよ!」

ジャッカルくんのツッコミが入ったところで思わず吹き出してしまった。なんだそりゃ。ほかにももっと、言うべきことがあるはずなのに、それ?

「…謝るよ」
「え?」
「ジャッカルが」
「俺かよ!」
「ジャッカルくんかよ!」
「あのよ…悪かった」
「いや、もういいよ。私こそごめんね。急に机叩いたり…」

なんだかんだでちゃんと謝るから、丸井くんはイイ子なのかもしれない。…少し生意気だけれど。

「普段大人しいやつがキレると怖いって身に染みたぜ」
「…そこまでじゃないでしょ」
「ジャッカルわかるそれ。震えながら『皆さんそろってお高いんですね』……とかなんとか言ってたやつとは思えねー」
「!?ちょ、ま、丸井くん!忘れて!それはもう忘れて!」

ジャッカルノート事件は思い出させないで欲しい。正直自分で何を言っていたのかよく覚えていないし恥ずかしいとか…そういうので済むレベルじゃないのだ。

「いいぜ、でも条件がある」
「…なにかな」
「ぶっちゃけ真田とはどういう関係なのか教えてくんね?」

またこれなの!?そう言い出さずにはいられなかった。それと同時にさっきのことを思い出して顔が赤くなる。さっきのって、本当になんだったんだろう…

「え」
「あれ」
「…な、なに?」
「この反応って、なんかあったってことか…?」
「 ちょっ、な、なんにもないよ!ただ、その、飲み物を!あげた!だけだからね!?」


そのあと、質問をガンガン投げかけてくる二人になんとかそれ以上のことは語らずに、そしてできるだけ悟らせないように、話したつもりだ。うまくできているのかはわからないけれど…

「ああもう、ほら!残りの飲み物持っていっていいから!お願いだからこれ以上は何も聞かないで!」
「え!まじで?サンキュー」
「おいそれでいいのかよ!…まあ俺も貰うけど」
「ジャッカルがコーヒー飲んでるってシュールだよな」

キャンキャン言っている二人をよそに、私はひたすら真田くんとのこれからを考えていた。今まで通り私は話しかけてもいいんだろうか。変な空気になるんじゃないか。そもそま、なんであんなこと言い出したのか。

「男の子って、わかんないや…」

ふと窓を見ると空は雲一つない快晴で、私の気持ちとは正反対だ。もうすぐ夏が来る。半袖はまだ寒いだろうなぁ…なんて思いながらため息をついた。


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