女は度胸、ここでやらなきゃ女がすたる。そんな言葉を頭に浮かべながら扉をノック。今ここで演劇部で培った腹筋パワーを使って大声で呼んで…そして、さっさと終わらせていまおう。
自分で届けると言った手前、このノートは必ずしもジャッカルくんに届けなければならない。足元がガッタガタする。うおお…静まれ鼓動…。下を向いて深呼吸をしていると、返事が返ってくる。勇気をふり絞らなくては……
「すっすみませぇん!あの!ジャッカルくんい…ま……す、か……」
初めはよかった。ずっと下を向いているべきだと後悔したのは初めてだ。
(なんでテニス部の人ってみんな揃って背がでかいんだろう…)
ごきゅっと喉がなる。頭からつま先までスッと血の気が引いた。緊張しているのがわかる。手足がさっきより激しく震えている。全身バイブモード、みたいな?あは、あはは…面白くないよ…
「み、みなさん、おそろいで…その、ええと…背が、おたかいんです、ね…はは…あはは……」
ジャッカルくんどこ…もう白目ひんむきそう…手に持ったノートが少し歪んでいる。た、耐えきれん…なんかめっちゃ見られてる…ノートから視線を上げればテニス部の方々からの視線が更に突き刺さった気がする。めっちゃ見られとる私…
「…佐藤」
「はいっ!佐藤です!どうもすみませんでしたあっ!」
「だ、大丈夫か?いつもより顔色が悪いように見えるが。…ジャッカルならそこにいるぞ」
突然名前を呼ばれるとドキンとする。悪い意味で。そちらを向くと、眉を八の字にした真田くんが立っているじゃないか。もはや異郷の地であるこの空間。知り合いを見つけた途端に緊張がかなり和らいだ。
「真田くんっ!?あ、ああそうだった、真田くん副部長だったね、あの、ありがとね!」
真田くんにお礼を言い、ジャッカルくんを目指す。初めから扉の近くにいてるれるとか、してくれればいいのに。確かに私が届けるった言ったけれど、人をパシっているくせにひどいものである。
「次はないよ?」
ノート(ちょっとクニャっとしちゃった)を差し出す。どうやらさっきの真田くんでよっぽど緊張がほぐれたのか、手の震えはおさまっていた。
「今度メシおごるって」
「…ご飯より飲み物とかの方がいいや」
「じゃあ明日おごる。ありがと佐藤」
軽いノリだなぁ、なんて眉を下げ、出口を目指そうとすると真田くんと目が合った。真田くんは落ち着くオーラというかなんというか、少し話しをするだけで元気と心の落ち着きをくれる。
「また、助けてもらっちゃったね。いつもありがとう、真田くん」
初めはブルブルしていたけれど、今じゃばっちり笑顔だ。真田くんになにかお礼か出来たらいいけど…ない脳をフル稼働してもあまりいい案が出てこない。本人に聞いてみようかな。
「あの、失礼しました」
テニス部から出てふぅ、と息が出た。春先の夜はちょっと寒い。駆け足で家に向かった。
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