『あ、も、もしもし…?私です、佐藤です』

「え、佐藤!?」

突然のコール音にも驚いたがその相手が佐藤だということにも驚いてしまった。まさか電話がくるとは思わないだろ、普通は。

「…佐藤?」

俺の叫びに一番に飛びついたのは真田だった。オレの方を見て不思議そうな顔をしている。そういや真田はオレと佐藤が友達だとか、そういうことって言ってねーんだっけ。

『あの、ごめんね急に。ただジャッカルくんの机に生物のノートが置いてあって…』
「え、マジで!?」
『うんマジなの。もしかして提出用で分けてたりする?わかんないから一応確認で…』
「わけてない。ってか助かった…範囲聞いておいてノート忘れるとか…」

普段話をしているときは妙に冷めた言い方だったり、メールだってそっけないのに、なんつーか…優しいところもあるんじゃんか。いや、佐藤は元々こうなのかもしれねぇ。

『ノート、どうする?というかジャッカルくんって今どこにいるのかな、近くなら届けようか?』






「え、佐藤?」

ジャッカルの言った言葉に、自然と脳が彼女の姿を映し出した。
佐藤なんて苗字は割とどこにもあるが、俺が思い浮かぶ佐藤は決まって始業式の朝の彼女と、部長として悩んでいると言われたときありがとうと礼を言った彼女の笑顔だった。

「佐藤…?」

そういえば、ジャッカルは佐藤と同じクラスだった。あのクラスの席順はよく覚えていないが、二人に面識はあるのだろうか。ジャッカルは彼女を知っているようだったが佐藤は?そもそもジャッカルの電話の相手は俺の知る佐藤なのだろうか。だとしたら…

(だと、したら…?)

だとしたら、どうするんだ?妙に胸がイラつく。これはなにに対するイラつきだ。ジャッカル?佐藤?それとも、それとも

「俺自身、に、か…?」





「真田」
「…なんだジャッカル」
「ここにさ、人呼んでもいいか?オレの忘れ物届けてくれるって言われてさ」
「かまわんが、物を忘れそれを人に届けてもらうなどたるんどる!」

コン、というノック音が響く。いままでざわつき落ち着きのなかったメンバー達は静まり、視線は自然と音の方向にあった。みな、何食わぬ顔でジャッカルの話を盗み聞きしていたため、それなりに誰が来るのか気になっていた。

「いいぞ」

ジャッカルの返事のあとにゆっくりとドアが開いていった。


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