「部長ってさ、ろくに演技させてくれないよね」
「わかるわかる。なんか体力づくりだとか言って走らせたり筋トレさせたりだし」
「なんか頼りないくせに仕切るなって感じだよね」


面目ないこと限りなし、である…。
部活の朝練でランニングと筋トレをして解散になった直後のことだった。一年生が私をよく思っていないのは知っていたけれど、まさかこれほどとは…。

人数不足で廃部が囁かれていた我、演劇部は、無事に5名の新入部員によりそれをまぬがれることとなった。私達二、三年生はとても喜んだし後輩も慕ってくれた。……二年の子達を。元々舞台に出て、主役を務めた二年生に憧れて入部したらしく、私が部長と言うと疑問の声が小さいながらも聞こえたのをよく覚えている。

「…人の上に立つって難しいな…」

もっと頼りがいのある先輩だったら良かったのに。もっと威厳のある、かっこいい先輩で…

「ハッ!た、たるんどる…私なんか今たるんでる気がする…」



「真田くん」

廊下にいた真田くんに声をかければ、ものすごい驚いた顔を見せてこちらを向いた。そんなに驚かなくてもいいのに。
たるんどる。そんな言葉が出てから私は芋づる式で真田くんがテニス部の副部長ということを思い出したのだった。是非とも部員をまとめるコツを教えてもらいたい。藁にもすがる思いだ。

「たるんどる!たるんどるぞ!」
「え、ええ!?ごめんね!?確かに私たるんでるよ、うん!」

急にべちーん!とほっぺを叩くのはやめて欲しい。ちょっとびっくりする。

「…すまない。今のは俺自身に喝を入れたのだ。それで、どうした?」
「(どこに今喝を入れる必要が…?)あ、あのね真田くん。真田くんって副部長でしょう?だから部員をまとめるコツを教えてもらいたいなぁ…と」
「そういえば佐藤は部長だったな」
「三年が一人だけだったからって、すごい情けない理由なんだけどね。そうじゃなかったら私なんて部長してないだろうし…こういうの向いてないと思うしね」

ふぅ…とため息をついて苦笑いをする。そんな私と対照的に、真田くんはキリッとした顔で私を見て、すうっと息を吸った。

「たるんどるぞ佐藤!」
「ぎゃあっ!」

思わず情けない声が出た。真田くんの声はいつもの二割増くらいでかい。いくらこれに馴れたからって、流石に音量が大きいとびっくりする。

「そんなわけなかろう!もしキサマが本当に部長に向いていないのならば、後輩たちに任せる。しかしそうしないのだ、佐藤が部長に向いていると認められたからだろう!何を弱気になることがある!」
「…そ、そうかな…?」
「当たり前だ!たわけが!」

真田くん、すごい暑っ苦しいよ。でも、でもこういう言葉って胸にジンとくる。少し泣きそうだ。思わず目頭を押さえる。…うん、大丈夫。こんなところで泣いたって彼を困らせるだけである。
軽く深呼吸をして、さっきの真田くんみたいに両頬をパシンと叩く。痛い。ひりひりする。真田くんを見るとちょっと驚いた顔をして、でも満足げに私を見ていた。

「真田くん、ありがとう。元気でた。あのね、ものすごく元気でたんだ。頑張ってみるね。私のできるところまで、ひたむきに、やってみるよ」
「礼を言われることはしてない」
「そう真田くんが思っていても、私なんか気が軽くなったの。ありがとう、ありがとう…本当にありがとう…」
「そんなに言わなくていい!」


この日を境に、私は真田くんともっとお話するようになった。お互いの部活のこと、授業のこと、天気のこと…。時間こそ短いけれど、彼と話しをするとなんだか元気になれるのだ。それが彼の真面目さからくるものなのか、暑苦しさからくるものなのか、はたまた両方なのか…それはわからないけれど、私は真田くんに出会えてよかったって、心から言える気がする。
桜の木はいつの間にか緑に変わり、風が吹くとその枝を揺らした。桜の木を見ては始業式のあの事を思い出して、たまに顔を覆ってバタバタとしてしまいたくなるけれど…




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