あれから桑原くんは妙に馴れ馴れしくなった。嫌というわけじゃないけれど、彼がいるといかんせん目立つのだ。それが困る。

「演劇部って筋トレとかするの?」
「うん。腹筋とか良くわかんない筋肉とか鍛えてるよ」
「よくわかんないって…あ、実は腹筋割れてたりとか?」
「割れてません」

彼と話すのはキライじゃない。話は面白いから妙に目立つというところを抜けば、普通にいい友達だと思う。…いちいち真田くんのことを聞いてこなければ。

「なージャッカルい、る……え?ジャッカルが女子と話してる…?」
「なんでそこで疑問系になるんだよ!」
「テニス部レギュラー唯一のモテない男が?……まさか彼女とか言わないよな?」
「うるせー!だいたいコイツはオレより…」

ああ、この人もテニス部なのか。ぽかんとして見てれば二人は小声で何やら話し合った後、私の方をまじまじと見つめた。

「…?」
「…おいマジかよ?」
「マジだって」

なにがマジなのかはしらないけれど、二人は私をじっと見てはコソコソと耳打ちしあうのだった。わけがわからないというより、なんだか居心地が悪い。次の授業の準備をして廊下に出た。次は音楽だ。

「佐藤」
「…真田くん?」
「落としたぞ。…音楽か?」
「あ、ほんとだ…ごめんねありがとう真田くん」
「いや、かまわん。そういえば俺のクラスでは歌のテストをやると言われたが…佐藤のところもか?」
「え!?歌のテストなんてあるんだ…困ったなぁ…」

そしてあれから真田くんも私にちょくちょくと話しかけて来るようになった。と言っても一分にも満たないし、世間話もいいところなのだけれど、こうして話しているのを桑原くんに見つかるとうるさいのだった。

「佐藤は歌うのが苦手か?」
「ううん、ただ人前で歌うのがちょっと…」
「…演劇部だというのに?」
「…演劇部だからって人前が得意と思ったら大間違いです」
「た、たるんどる」

真田くんの古典っぽいというか、武士っぽいというか……独特の言葉遣いにもだんだんと馴れていった。初めて会話の中に「たるんどる!」と彼お決まりのセリフが出たときに驚きすぎたせいか、遠慮しがちに「たるんどる」やら「たわけ」等々言うようになった。別に大丈夫なのになぁ。

「そうかな…ねえ真田くん」
「なんだ」
「その、たるんどる?とかたわけ?とかさ、もっとガツーンと言っていいんだよ?」
「いやしかしだな」
「確かに初めての時はびっくりしたけど…でも流石に何回か言われてればなれるし、真田くんも思い切り言った方がスッキリするんじゃない?」
「確かに一理あるが」
「たわけ!」
「!?」
「…なるほどなぁ、それなりにスッキリするかも。真田くんも一緒にどう?」
「たわけが!そうやって使うのではないわ!」
「おお…迫力ある…」

私が呆気に取られた後、くすくすと笑えばつばが悪そうに「たるんどる!」と言って真田くんは歩き出していった。
バイバイ、というと真田くんは背中を向けながらも手を振ってくれるので、機嫌を損ねたわけじゃないらしい。たぶん、あれは

「照れ隠し、だよね…?」



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