ボンボヤージュ


喜多川くんと俺を呼んだミョウジナマエは、確かに増田が言うように綺麗な顔をしていた。普段俺の方が前の席であるからとか初めて同じクラスになったとか、理由はいろいろとあるが、改めて見ると目立つ顔ではないのに凛としていて俺よりも年上に見える。


「あの、喜多川くん?今大丈夫?」
「えっあ、うん!平気だけど!」


俺の様子を見て増田と藤原が笑っているのがわかる。うるさい、こうなったのもお前らが好き勝手に言っていたからだろ。


「ちょっと場所変えてもいいかな。ここでもいいんだけれど、できたら違うところがよくて」
「別にいいけど…」
「ほんとう?よかった!」


嬉しそうに笑うミョウジはどこが空いてるかな、なんて言いながら教室を出る。ぼけっとした俺に気がつくと不思議そうに喜多川くん?と話しかけた。そうだ、ついていかなくちゃな。昨日の帰りの会話がふと浮かんだ。

もしも本当に、ミョウジが俺のことを好きだったら…

まさか、話したことだってこれが初めてなようなもんなのに。でももしかしたら、本当にそうなのかもしれない。そうしたら俺はどうしたらいいのだろう。




「えっと…まずはこれ」


少し恥ずかしそうに俺に差し出したのは宛先の書いていない手紙だった。ここで俺はとんでもない勘違いをしていたのではないかという考えが浮かんだ。もしかしたら、俺にラブレターを渡す中継役をして欲しいという頼みなのかもしれない。ありうる、それも、十分に。


「一週間くらい悩んだの。本当はこういうのってよくないんじゃないかとか、迷惑かもしれないって」
「ミョウジ」
「でも、その…私好きなんです、それもすごく…全部集めて飾るくらいには!ゆみこ先生!処女作からのファンでした!」
「えっ」
「あのっ名前で気になってコミックスを買ったんですけど、内容も好きで、それで私、本誌も買って…あっ!アンケートも出してるんです!それで、ファンレターとかも出してて、えっと、喜多川くんが先生って聞いて、つい…あの……」


なあ、たしかにミョウジが俺のことを好きっていうの、間違いじゃなかったみたいだ。ただ好きなのが俺というよりはマドモアゼルゆみこというだけで。なんとも言えない喪失感と、初めて出会った生のファンに浮かれる気持ちに挟まれてぐるぐるしている。
とりあえず手紙を受け取れば、ミョウジはここ一番の幸せそうな笑顔ととろけそうな声で「大好きです」と言った。全身が熱い。刺激が強すぎる、なんだ、女って爆弾みたいにたった一言で仕留められるものなのか?これが漫画についてじゃなくて、本当の本当に色恋沙汰だったらよかったのに。



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -