▼ 混乱した欲望
いい匂いがする。トーストの焼ける匂い、鍋をかき混ぜる音とお出汁と味噌の香り。和食なのか洋食なのかわからないけれど、久しぶりだなぁ…こういうちゃんとした朝ごはんって。いつも食べないもの、食パンなんて最後に買ったのはいつだったっけ…
(って、嘘…でしょ?)
目が覚めたら知らない場所でした、まる。えっ、えっ?ここどこ?友達の家…じゃない、ならどこなの?ベッドから身を起こすとなんとなく分かってはいたのだけれど…裸だッ!パンツすらつけてない私…これ絶対に事後じゃないですかーやだぁー!ということはつまり男の部屋で、ああそういば頭と下腹部がやけに痛い。これ絶対お酒飲んだわ、私。下戸だから飲まないようにしてたのになんでまたこんなことに…
「起きたんですか、先輩」 「ギャーッ!」
腹の減る匂いとともに登場したのはサークルの後輩の…橘であった…まじかよ、私後輩食っちまったのかよ…確かにちょっと好きだったけれど酒飲んで襲うって…頭がグラグラする。 慌てて布団をかぶり全裸を見られないようにすると、なにか納得した顔でタンスからTシャツを取り出し、着てください、と私に差し出した。oh…彼シャツ…布団の中で着替えたけれど、これはなんか恥ずかしいモノがある。だってでかいけど、隠せているけど、見えちゃいそうだ。…上も下も。どうせ見たのだからと自分に言い聞かせ布団から出ると、橘が良かったらとトーストと味噌汁というアンバランスな朝食を指さした。
「い、いただきます…」 「はい」
きっまず!だんだん覚醒してきた脳みそを回転させてこうなったあらましを思い出す。確か、そう、橘のハタチの誕生日でサークルのみんなと飲みに行って…橘の誕生日だからいつもは飲まないのに酒を飲んでのまれて……あとはもう思い出せない。
「あの、私の服は…」 「さっき洗濯しました」 「え!別にいいのに、そんなことしなくったって」 「あー…その、汚れとかすごかったので」 「も、もしかして私吐いちゃったり…?」 「そうじゃなくて、その、」 「あっ…ああー…!」
そういう『行為』の汚れか…!頭抱えたくなった。我ながら見事に墓穴を掘ったものである。そんなに汚れるほど激しい、モノ、だったの…へぇー…セックスとかしたことないからそんなの知らないし…っていうかそうよ、私、今まで彼氏いたこともないのに酔っぱらって後輩ぺろりと食べちゃったのか!?処女のクセして!?
「その、ごめんね…昨夜は…」 「別にいいさ、そんな気にすることでもないだろ」 「えっ、橘」 「名前は心配症だよな」
橘が…私から敬語をとっぱらった、だと…?サークル入りたての時も学年が上がった時も敬語を使わなくていいと言ったにも関わらず依然として敬語を使った橘が?驚いている私に気づいているのかいないのか、橘はちょっと照れた顔で味噌汁冷えるぞなんて言って急かした。橘の味噌汁はあったかくておだしがうまくて、きっとこんな状況じゃなかったら素直に美味しいって喜べたんだろうなぁ…
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