孤独の温度 | ナノ
いつの間に寂しがり屋になった?



桔平さんも私も普通の会社員だ。…と言ってもいつも私の方が早く家に着く。まあ私の方が家に近いし、内容的に定時で終わることの多いからだ。
その日は珍しく私が遅く帰ってきた日で、いつもより2時間ほど遅く帰宅した。もう桔平さん帰ってるんだな、なんて暗くなった辺りを照らす私達のアパートの部屋を見た時、すっと安心したのを覚えている。


「ただいま」
「おかえり、遅かったな」


いい匂いのする家。きっと桔平さんが作ってくれておいたのだろう。早く家に着いた方が料理を作ると決めておいたので遅く帰った方はいつもこんないい匂いに包まれるのか、なんて思ったことがある。1年以上一緒に暮らして桔平さんよりも遅く帰ったことがなかったから、なにか懐かしいような気がした。


「いつ帰ってくるかわからなかったからな、煮物にした。今から魚焼くから着替えてこい」
「はーい!なにか手伝うことありますか?」
「疲れてきた時くらいゆっくり休んでろ、たまにはこうやって世話を焼かれるのもいいだろ?」
「…しょっちゅう焼いてもらってると思うんですけど」




桔平さんとご飯を食べた後は二人でお皿洗いをして、冷蔵庫の中のビールを空けたり酔っぱらってるね、なんて話をした。もう寝る頃になると桔平さんがたまにはいいだろ、と言って誘ってきたので、別にエロチックなことをするわけでもなく、ただ一緒に狭いシングルのベッドに二人抱き合って寝たのだ。今度タブルのベッドを買おう、なんて話もして。


「おやすみ、なまえ」
「おやすみなさい、桔平さん」


夏だから、暑いのにエアコンつけてまで抱き合って眠る必要はないのにね。そんなことは言えなかった。桔平さんのぬくもりが体には嬉しくて、安心した。もし桔平さんがいなくなってしまったら、ある日大喧嘩して別れようなんて言われてしまったら、私はきっとダメになってしまう。
桔平さんを知るまで、私はどんなに孤独だったんだろう。この匂いもぬくもりも何も知らなかった頃の私を思い出すと、それはひどく寂しく孤独であったような気がする。離れたくない。ずっと、ずっと傍にいたい。私の人生はもうほぼ半分が桔平さんと過ごした日々になっていた。これから先の人生も、あなたと一緒にいたい。ああ、なんだか泣けてきた。


「酔ってるのか?」
「…そうかも」


ぎゅうと抱きつくと暑いけれど、その暑さが今の私には一番欲しいものだった。


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