孤独の温度 | ナノ
夏のあつさ

「桔平さん、今日はお仕事遅かったんですね」
「ああ、気がついたらこんな時間だった」


夜の住宅街は暗くてひっそりとしている。ここはどちらかといえば郊外にあるし該当もあまり多くない。私達の話す音とこつこつとヒールの鳴る音、それと蝉の鳴き声だけ。
なんか、私達だけの空間みたい…とは言わない。ちょっと恥ずかしいセリフだし、付き合いたてのカップルみたいな甘々なことは少し言いにくい。


「なんだか、俺達しかいないみたいだな」
「えっ」
「あ、いや…静かだろ。だからなんとなくな」
「そうですね、私もそう思ってました」


そして私の言いにくいことをさらりと言ってしまうのが桔平さんだった。なんてこった…桔平さんは照れた様子もなく、そういえばと話を続けていく。私はそれに対して暑いくらい照れてるのに。夏の暑さも相まって汗が出そうだ。


「今度上司が結婚するらしくてな」
「えっ?あ、そうなんですか…じゃあ桔平さん結婚式にお呼ばれしたんですか?」
「ああ、三ヶ月後に式の予定らしい」
「早いですね」
「準備してたらしいぞ」


親戚のお姉ちゃんが結婚するって言ったときは半年くらいかかっていたから、ちょっと驚き。というか、桔平さんから結婚の話が出るのにも驚きだ。上司が、っていう話だけれど。


「奥さんがメッセージカードを手書きにしたらしくてな、なかなか終わらなくて大変らしい」
「あ、それ私の親戚のお姉ちゃんもやってました。目を血走らせて書いたって」
「ハハハ!目が血走った花嫁か、それはなかなか怖いモノがあるな」
「さすがに式の時は普通でしたよ。…あ、でも途中で泣いていたから目は赤くなってたけれど」


…私も、そんな日が来るんだろうか。白いドレスを着て指輪を交換して、誓いのキスなんかして?うーん、想像できない。私はそういうのよりも…ただずっとこの人と居られれば、それだけで十分だなぁ…


「なまえは似合うだろうな」
「え?」


それは…どういう意味?この流れだと、なんというか、期待してしまうのだけれど。桔平さんはその後何も言わないので私はモヤモヤしたままだし、家は近くなってゆくし、やっぱり暑いし。
私をあつくさせるのは、さっき飲んだお酒のせいなのか気温のせいなのか、それとも隣の桔平さんなのか。ああもうイマイチわからない。





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