孤独の温度 | ナノ
こういうのってダメかしら

お互い安定してきたんじゃないかとは思う。仕事も順調だし入社から5年程経ち、部下もできたし給料も悪くはないし貯蓄もある。何より私達付き合ってから10年以上になる。そろそろ次のステップに行ってもいいんじゃないか。


「その、ね…結婚しようと思うの…」
「えっ」
「えっ?」
「それってつまり橘さんからプロポーズされたってことか?」
「ううん?違うの、私がプロポーズ…しようかなって」


カランとグラスの氷が鳴った。水曜日に中学校以来からの友人である石田と飲むのが恒例になっていた私は、ついにこの話を持ちかけた。
逆プロポーズ、してみようか…なんて。
前からそうだった。告白もキスもその先も始まりはいつも彼からで、そうだ、私のことをみょうじからなまえと名前で呼び始めたのも桔平さんからだ。いいじゃないの、こんな時代だし最後くらい私から始まるのも悪くない。


「おったまげた?」
「そりゃ…たまげるだろ」
「でもね、これ、ちょっと前から考えてたことなの」


グラスを空けて、フゥと一息。プロポーズなんてする予定なかった。でも、何も変哲のない日だったあの日。私はたまらなく彼が欲しくて、ずっと隣に居られるという証が欲しくて。真面目な顔をしていたのか、私を見て石田は一言そうか、と言ってまだお酒をちびちび飲み始めた。


「やめろとか、言わないの?」
「お前だって考えた結果なんだろ」
「…うん」
「応援はしてる…まあどうせ成功するだろうけとさ」
「アハハ!そうだといいんだけどね!」


ばしんと石田の背中を叩いたところで携帯が震える。着信だ。それも、桔平さんから。出てもいいか了承をとって通話ボタンを押すと、ざわざわと駅の雑踏とアナウンス、それと、ああ、桔平さんの声。


「もしもし、どうしたんですか?」
『ああ、今駅を出てな。まだいつもの店か?』
「…もしかして迎えに来てくれるんですか?」
『もう遅いしな。どうせ会社の帰りだ、たまにはいいだろ』
「それは、もちろん」


通話をやめて石田に視線を向けると、そろそろお開きにするか、なんて気を使ってくれるのでお言葉に甘えることにする。ごめんね、また今度…その頃には私、結婚してるかもね。なーんて軽口をたたいて笑う。


「私ね、丁度だから桔平さんの誕生日に言おうかと思うの」
「ってそれ、もうすぐじゃねぇかよ!」


今日は6日。だからもう1週間と少し、そうしたら私の決戦の日が来る。


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