秋の水は冷たい


「た、橘くんったら行動力あるぅ…」

ボロボロの橘くんに事情を聞いた私は、思わず頭を抱えたくなった。転校して全然経ってないのに新しいテニス部を…おお…凄い。彼のやったことは誰にでもできるわけじゃない。けれど褒められることかどうかと言われると…ううーん、私は絶対にできないとしか……。


「行動力があるのは名字もだろ、目が合った時、まさか単身で来るとは思わなかった」
「先生呼びに行ったらもっとボコボコになってたでしょ」


あのとき。校舎裏の影から歩き出した私はそのまま近くにあったホースを引っ張り出し、蛇口をこれでもかとねじり…そして水をぶっかけた。色々と文句を言ってやりたかったのに、口から出たのは情けない叫び声だけだった。それでも殴っていた男子たちは一目散に逃げ出し、息をあげ半泣きの私とびしょ濡れになった橘くん含めた男子生徒たちだけが、校舎裏に残った。
そこから彼らを保健室に押し込み驚く先生にタオルを借り怪我を治療してもらい、話を聞くべきか職員会議に行くかで悩む先生に会議に出るように促し、そうして今に至る。


「…あのさ、今更だけどどうして先生だとかに相談しなかったの?」
「顧問に言ったってどうせ聞いてくれないんだ…言うだけ無駄だろ…」
「そこで顧問じゃない先生っていう選択肢はないのね」
「だいたいなんなんだよ、部外者の癖に首突っ込んで…嫌になるよなぁ…」


テニス部の1年生らしい男の子がなかなか心に刺さることを言ってくる。うう、正論過ぎて何も返せません…確かにクラスメイトである橘くんのことならともかく、テニス部のことに足を踏み入れるのはいかがなものなのか。私って、ちょっと優等生ぶってる普通の女学生で…


「あっ!私!私生徒会の一員だよ!明日は生徒会の定例会議だしこのこと議題に出す!」
「いや、流石に名字にそこまでやってもらうわけにも行かないだろ」
「もうここまできてボコボコにされて、俺らの問題とか生ぬるいこと考えてない?」
「お前、生ぬるいってなぁ…」
「生ぬるいよ。既に保健室の先生は何かがあったってわかってるでしょ、それに部活のことはどちらかというと生徒会の管轄だよ」


私の言葉に橘くんはやっと折れたらしく、頑固だなぁと私の頭をぐちゃぐちゃと撫でた。髪が乱れると言いかけて、やめる。少しだけ橘くんの手が震えている。顔をのぞき込めば複雑そうに顔を歪めていてなんだか泣いてしまいそうで。


「ありがとう」


なのに私の方が、泣いてしまいそうになったのは何故なんだろう。




prev next
bookmark back


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -