なじみ発光す



橘くんはクラスに馴染むのがとんでもなく早かった。なんだこのスピードは…きっと彼の人柄が関係していると思うのだけれど、クラスのみんなは橘くんが方言ちょっと出るの気にしてたって知らないんだよね。そう思うとちょっと優越感。…何にって言われると少し困るのだけれど。


「名字おはよう」
「おはよう、橘くん」


橘くんはどうやら最近にテニス部に入ったみたいだ。転校してすぐに入部すると思っていたものだからどうしてか聞くと「ちょっとな」しか言ってくれないので詳しくは知らないのだけれど、部活をやっていない身からすれば羨ましいものがある。なにかに打ち込めるのはいいなぁ…


「なんのプリントだ、それ」
「ん?ああこれ?生徒会のプリント。今日って部長会があるからそれで使うプリントなの」
「へぇ、そんなものあるのか」
「そうなんの、内容はいつも下校時刻を守らない部活があるとか器具の片付けについてとかなんだけれどね」


面倒だけれど私は生徒会でせかせかと働きアリの如く動くのだ。イイ子ちゃんでも自分のこれからの未来に有利になるのなら少しぐらいの面倒くさいことには目をつぶる、というのが私の中の決まり。
お疲れと言う橘くんにお礼を告げ作業に取り掛かる。ホッチキスのパチンという軽快な音はキライじゃないのにこういうちまちましているというか、単純作業はあまり好きじゃない。早く終わらせて予習したいなぁ…どうしてこんなに遅く印刷するかなぁ…





「またテニス部は来てないの?」
「あの、女子は来てるみたいです…」
「名字さん、いつものことだけと頼むね」
「あ、はい…」


会議室から出て思い切りため息をつく。部長会をサボる人間がいた場合に呼びに行くのが私の仕事た。放送では外の部活に聞こえないからって理由で、私はわざわざ呼びに行かなくてはならない。
悲しいことに男子テニス部は部長会のサボリ常習犯なので私はその度にガラの悪いテニス部に行って呼び出さないといけない訳で、本当にめんどくさい。舌打ちされるし。


「しかもうるさいし…」


うるさいのは嫌い。授業中に騒ぐ人はもっと嫌い。私のキャラ的にそれを咎めたり抑えたりしなくちゃならないから、めんどくさいし先生にお前が静めろと視線を向けられるのがイヤでしかたないからだ。
テニス部はいつもうるさくて、怖くて、だから……そういえば橘くんはテニス部に入ったのだっけ。じゃあ橘くん以外のテニス部は嫌いだ。あそこの顧問もいけ好かないし。テニスコートに向かっている途中、校舎の裏っかわ。そこから内容は聞き取れないものの男子の奇声が聞こえる。近づいていくにつれ、どんどんと声が大きくなって、あれ…騒ぎ声、だけれどこれは…


「どちらかというと罵声みたいな…」
「お前ら……すな…!!」
「えっ!?」


これ橘くんの声じゃん!?本当にこれ、何事!?のんびりとした足を急かして校舎裏に走ると、そこにはやたらめったら殴られ蹴られる橘くん(と見知らぬ学生たち)という…ぼんやりとしていた私の目を覚ますには刺激が強過ぎるくらいの光景が広がっていた。
なにか言わなくちゃ。止めなくちゃいけない。こんなのはよくないってわかってる、けれど体ががうごかない。


「…」


固まる私を動かしたのは私と目が合い、驚いた顔をした橘くんだった。何を躊躇うことがあるんだろう。橘くんはいい人だ、そんな橘くんが暴力を振るわれていて、それをどうして見捨てることができる?そんなのは無理だ。ギュッと唇を結び一緒に目もこれでもかというほど開いて、私は一歩を踏み出した。




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