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▼ きっと生まれる前の

私は正直な話、男の子というものが苦手だ。
理由を挙げれば、まあ、いろいろあるんだけれど、女の子相手になら普通に楽しくおしゃべり出来るというのに、それが男の子になった瞬間、私の口はカラッカラになり手は震え、じわりと嫌な汗がシャツににじむ。どうしてここまで緊張するものなのかとも思うけれど、私だって、そんなことはわからない。けれど一人だけ、私が男の子でも唯一お話できる人がいる。


「…そんなに見つめたら照れるぜよ」
「え、やだそんなに見てた?」
「そりゃもう穴が開くんじゃなかと思うくらいには見とった」
「本当?ごめんね、その、なんていうか…不思議だなって」
「なにが?」
「こうやって、仁王くんと向き合ってお話できてるのが」


たしか仁王くんと話をしたのは掃除の時、ちりとりを取りに行こうとしたら既に彼が持ってきていてくれて…あの時からずっと不思議だったのだ。いつもは震えて言葉なんて紡げない口から、さらりと「ありがとう」なんて言葉が出ていったから。どうして、なんて思ったのと同時に酷く落ち着いたのも記憶している。まるでお母さんとか、そうう家族みたいな懐かしさというか…いや、別に仁王くんみたいな人が私の家族にいるわけではないのだけれど、ただ、懐かしい匂いがしたのだ。
それにより、それまではただのクラスメイトだと思ったのに、私の中で仁王くんという人が、ぐんと頭の中を占めていった。
…ただそれが甘ったるい恋だとかそういうものなのかと言われても、私は頷くに頷けない。好きではあるけれど、これが恋だとかそういうものなのかと言われると悩んでしまうのだ。


「…確かに、不思議じゃの。俺もまさか、こうやって話せるなんて思わんかったき」
「仁王くんも?…あ、もしかして仁王くん、私と一緒で女の子と話すのが苦手な感じ?」
「そういうんじゃなか。ただ、これをお前さんに伝えても、俺は…」


口篭る仁王くんは珍しい。バッと目をそらした彼の顔は、やっぱり綺麗で。彼としか話せないなんて、もしかしたら私はとんでもない面食いなのかもしれない。


「なまえ」
「えっ!?ど、どうしたの急に?」
「別に急にじゃないぜよ、なあ、やっぱり覚えてるんは俺だけって」


覚えてるもなにも…今日は何か宿題が出ていたっけ?彼がこういうことを言いたいんじゃないのはわかっているんだけど、まったく身に覚えがない。
急にじゃない。そう言う仁王くんは少し泣きそうな顔で、それがいつも飄々としている彼とはうまく結びつかなくて、だけどこんな顔を彼を、私は前も見たことがあるような気がする。


「もしかして私達、前にどこかであった?」


その言葉に泣きそうな顔から一変、驚いた顔をした仁王くんがもう一度私の名前を呼んだ。やっぱり、懐かしい。この懐かしさは昔どこかで会っていたからなのかもしれない。ああ、それなら合点が行く。


「…今はそう思っててくれたらいいぜよ」
「違った?」
「違くはないがの、でも、惜しい」
「惜しい?やっぱり私達どこかで…」
「なまえ」
「えっ」
「こう呼ばせてくれんのなら、今はもういい」
「そんなの…いいに決まってるけど…」


なんだか、含みのある言い方をするなあ。でもこの場合、私が彼のことを忘れてしまっているのがいけないわけで…うーん。どうにか思い出せないものか…。昔の記憶を引っ張り出してもそこに仁王くんはいない。いったい私達、どこで会っていたの、仁王くん。






次の日、私は夢を見た。簡潔にまとめると私が姫で仁王くんが従者という…よくもまあ、我ながらどこからその考え浮かんだの!?となるものだった。いや本当にこの発想はどこからきたのだろう。やたらとリアルな夢だったもんで、それがまた一段と不思議なのだ。私、歴史とか苦手なのになぁ…


「おはよう、仁王くん」


夢の中でも会って教室でも会って、今日は朝から仁王くん祭りだ。私の挨拶に少し影のある顔で返す彼。こんな顔をする日は希にあり、いつも賑やかな方というわけではない彼がより一層静かになるなるので、私はその度に心配になる。


「大丈夫、仁王くん?」
「…すまんのう、気にせんでいいぜよ。ただ夢に、」
「夢?」
「っいや!なんでもないんじゃ、気にせんで」
「何か怖い夢でも見たの?」


漫画とかでも良くあるよね、同じ夢を見るってこと。もしかしたら怖い夢を何回も見ているのかもしれない。…そう思うと気の毒になってくる。仁王くんが暗い顔をしていても不思議じゃない。


「いや、悪い夢じゃないんじゃ」
「それなのにそんなくらい顔、してるの?」
「悪い夢じゃないから、辛いんじゃよ」


どういうことなんだろう。私の思考回路では彼の言った意味がイマイチ理解できないでいる。悪い夢じゃないのならいいじゃない、それなのにどうして辛いの?仁王くんはそれからだまりっきりで、少し重たい空気が漂う。何か空気を変えられるようなことを…


「あ、そうだ、あのね。今日の私の夢の中で仁王くん出てきたんだよ」
「…俺が?」
「うん。なんか和風でね、仁王くんは従者っていうのかな?そんな役職だったの、それでまさに夢!って感じなんだけど、私は」
「姫」
「えっ!?」
「姫、この城は落ちる。それまでにお前さんだけでも逃げるんじゃ」
「そんなあなたをおいて逃げるだなんて…って何この茶番劇!あと、なんで、」


なんでわかったんだろう、私の夢の内容。この会話、まんま夢の中といっしょだ。彼に話した記憶は…ない。ならなんで?


「俺も見とったんじゃよ、その夢」
「ほ、ほんと?そんな双子みたいな…」
「ずっと前にであってた。これでわかったじゃろ?」


こんなことありえるのか。生憎だけれど私はそんな話はフィクションの中しか知らない。でもこれが本当なら私が男の子でも仁王くんだけは大丈夫な理由もわかるような気がする。もしかして仁王くんは私より前からこの夢を見たのだろか。それなら彼の言ったこともうなずけてくる。ああ、そんなだって、まさか…


「プピーナ」
「…へ?」
「まんまと騙されたぜよ」
「な、なな…っ!ええーっ!?全部嘘!?」
「いんや、本当の部分もすこーしある」
「どこ!?」
「それは秘密じゃよ」


な、なんて天邪鬼な…!!確かにそんな小説みたいな話あるわけないもんね…すっかりと騙された。ケタケタと笑う仁王くんは話しかけた時よりも明るい顔をしていて、まあ、元気になれたのならいいかな…なんて。

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