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▼ エアシューター

※高校生



「あっれー?みょうじじゃん?奇遇だなぁーお前ここでバイトしてたのかぁー」
「…えー、7人様ですね。ただ今お席の方案内いたします」
「なあなあー!」


チッ…クショウ!神尾てめぇ謀ったな!もう二度とノートも課題も移させてやらねぇぞ覚悟しておけよ!!
休み時間になんとなく、今日バイトあるのか…なんてつぶやいたのが始まりだ。そこから神尾のどこで働いているのかという質問に駅前のファミレスだとまんまと答えたところ、その放課後、神尾が空気も読めず部活の皆様を引き連れてバイト先に現れたのである。バカ。ほんとバカ。ひたすら話しかけてくる神尾をスルーして席に通す。ここの担当変わりたい。


「なまえ」
「あ、う、橘さん」
「バイトしてたんだな」
「その、最近はじめまして…」


…オイ神尾、橘さん連れてきてくれてありがとう。そこだけありがとう。元気出たわー超出たわー。だからもう帰れ。一応お客様なので(引き攣っていると思うけど)笑顔を作ってメニューを差し出す。どうせドリンクバーで屯ってだべって何時間もいるんだろ?やめてくれよ…せめて静かにしてて…





「みょうじさーん、ちょっときて!」
「はい!」


チーフに呼ばれ、ドリンクバーの整理をやめて駆け寄れば、なんだか困った顔をされた。…理由はわかっている。神尾たちだ。うるっっっせぇんだな、これが。用事で少し橘さんが抜けた途端大盛り上がりだ。鬼の居ぬ間になんちゃらか?ただひたすら無心になって片付けやら注文を受けていたりしていたから気に止めないようにしていたけれが、営業妨害とまでは行かないけれど迷惑である。


「ごめんね、あの男ばかりを本当は女の子一人に任せたくはないんだけれど…ほら、同じ学校の人なんでしょう?」
「う…はい、わかりました…」


つまり責任とれということなのだろう。あー…神尾に言わなければよかった。ため息をついてあいつらのテーブルに近づくと、そのうちの誰かが私に気づいたのかそのうるささが更に増す。ふざけんな。


「お客様、他の方の迷惑になりますのでもう少しお静かにお願いいたします」
「うわ!すげーみょうじマジもんの店員みてぇ!」
「本物の店員だからこうやってわざわざ注意しに来たんだろ…周りも似たようなもんなのにここだけ注意しに来るとか嫌になるなぁ…」
「す、すみませんねぇ…」
「ちょ、伊武!悪いのは俺らなのにそれはよくないだろ!」
「なんだよ、石田はコイツの肩持つのかよ、橘さんと付き合ってるからって…ムカつく…」


め…っんどくせぇなあこいつ!!客じゃなかったらテメェ奥歯ガタガタいわせたるぞ覚えてろよ!神尾以外は名前知らないけど!私の注意により静まるどころかさらに勢いを増すテニス部御一行(橘さんを除く)。助けを求めるように周りのスタッフに目配せしても誰も助けてはくれない。みんな打合せしたかのようにそらして、私を見ようとすらしない。なんてやつらだ。


「お前らなんの騒ぎだこれは」
「えっ」
「橘さん!」


突然の橘さんの帰還により、その盛り上がりは一気に沈静化した。素早い奴らだ、さすが全国に行っただけはある。


「すまないななまえ、騒がしくして」
「あ、いや、静かにしてもらえればいいので」
「店員のお前がわざわざ来たということはかなりの騒々しさだったろ?ほらお前らも謝れ、無関係の人間に迷惑かけるんじゃない」


天使か…橘さん救世主で天使で菩薩か…。彼の言葉により(大半の奴らは渋々と)謝罪をし、それを促した橘さんは申し訳なさそうにもう一度私に謝った。しっかりしてるなぁ、やっぱりこういうところ、好きだなぁ。


「これからは気をつけてください、それではどうぞごゆっくり」
「なまえ」
「は、はい!」
「ありがとう」
「え?あ、いえ!お気になさらず!」


橘さんのありがとうがなんの事かはわからなかったけれど、でも心が軽い。テーブルを離れ、また元の仕事に戻った私にお疲れと労うスタッフの声よりも、ずっとずっとわたしの心の中に響いていった。





「こちらレシートとお釣りです。ありがとうございました」


後半は静かだったテニス部御一行の支払いまでまさか担当するとは思いもよらなかった。神尾がまたなー!なんてのんきに言ってくるものだからぶん殴りそうになったけれど。全員分の支払いも終え、やっと台風が去った、そんな気持ちだ。次々と帰る彼らを見ていると肩の荷が落ちたのを感じる。今日は早く寝よう。


「すまん、これもいいか」
「はい!…あれ、橘さん飴買うんですか?店員の私が言うのもなんですけれどスーパーとかの方がずっと安いですよ?」
「ああ、今必要でな。頼む」


今必要って、橘さん喉が痛かったりするのかな。うーん心配だ。バーコードを読み取り金額を言うと、既に用意していたのかほんのりと橘さんのぬくもりの移った小銭を手渡される。うわぁこの小銭レジに入れたくないな…


「レシートはどうします?」
「ああ、もらっとく」
「では、商品とレシートです。ありがとうございました」
「あー…商品はいい」
「え?」
「お前にやるよ、うちの奴らが迷惑かけた詫びとお疲れ様ってことで」
「えっ、た、橘さ」
「まだあるんだろ?頑張れよ」
「…はい!!」


橘さん…ああ、もう大好き…この飴もったいなくて絶対に食べられないけどお守りにします。これだけあれば正直できないことはないと思う。私にニコリと笑を向け、手を振って出ていく橘さんにできるだけ深いお辞儀をして見送る。まだまだ上がりまで時間はあるけれど、頑張りますねッ橘さん!

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