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▼ アイドル活動!

「そして今週のゲストは、最近人気急上昇な真田弦一郎くんです!」
「どうも」
「いやぁすごい声援ですね、特に奥様方からの黄色い声がすごい!」
「ありがとうございます」


ああ…真田くんやったね、ついにゴールデンの、しかも歌番組に進出だよ…!司会者にぶっきらぼうに答える彼を見て涙が出そうになる。
お米のイメージボーイにめでたく選ばれた真田くんは「日本人なら米と味噌汁」と、渋い…渋すぎるキャッチコピーの元、お米のパッケージになったりお米の歌を歌ったり…イメージボーイを全うしたのだった。ちなみにそのおかげで事務所に米袋が贈られ、米に困らない生活になったのであった。
そしてある日、ネットでそれが話題となり、今や時の人である。ちなみにネットでの話題は米のイメージボーイ(笑)とかサバ読みすぎだろみたいなのから始まったので、微妙にそれを気にしている彼にはぼかしてしか伝えていない。…まあそれはともかく、嬉しいものだ。自分の育てたアイドルがこうやって頑張っているのだから。


「それでは歌ってもらいましょう、曲は真田弦一郎さんで"何故米を食わん"」


……たとえ、たとえ、初めての音楽番組での歌がデビュー曲でなくても。ひたすら米について歌っている曲であっても、だ。






「えー!それでは真田くんの初ゴールデン、アンド歌番組進出を祝って!かんぱーい!」


カチャンとグラスのぶつかる音がする。私と社長と真田くん、三人だけの祝勝会だ。社長の用意した安い発泡酒をぐびぐびと飲み、今日を振り返る。この収録で真田くんは確実に前に進んだ。新しい曲をだそうという話もあるし、イベントへのゲスト依頼もある。少し前では考えられなかったのに…


「よし、真田くんこのままトップアイドル目指そう!」
「はい!」








「みょうじさん、ひとつ聞いてもいいですか」
「ん?なあに?」


ほろ酔い気分のままタクシーを拾い、真田くんを送りながらポツリポツリと話をしていた。タクシーの振動が心地よくて、真田くんの低音も私を落ち着かせる。ああ…すこしだけねむい…


「どうしてアイドルをやめたのですか」
「…は?えっと…どうして?」
「社長から聞きました、昔は芸能活動もしていたと」
「ったくあの社長は…」


驚きと呆れから眠気もバッチリ覚めてしまった。社長はこんな余計な話を聞かせてどうしたいのか。


「本当に昔の話よ、私の学生の頃だもの」
「どうしてやめたんですか?」
「あれ、それは聞いてなかったの?喉をダメにしちゃったのよ。こうやって話すくらいなら平気だけど歌うとなったらてんでダメ。…まあ私はアイドルとして活動していたというよりシンガーソングライターとして、だったけどね」
「シンガーソングライター…」
「うん、あの真田くんの歌も私が作ったの。だからちょっと古臭いんだこどね」


よく口が回る日だ。視線を外に移すと流れるネオンが眩しい。真田くんは私の言葉を聞いた後、ついに何も話さなくなってしまった。思い出話にしては重過ぎたのかもしれない。何も彼が気にすることじゃないのに。


「俺は、トップに立ちます」
「え?」
「みょうじさんの作った歌で、必ず登りつめます」
「真田くん…」


なんだか泣けてきてしまった、お酒が入るとこれだからいけない。暑苦しくて若くて、まっすぐすぎる。お互い簡単じゃないことはわかってるのにそれを目指してしまうのはどうしてだろうか。それは、それはきっと、


「真田くんなら必ず大丈夫よ」


彼を信じているから、なのかもしれない。


「でもまずはコメドルから脱却しなくちゃ」
「コメドル…?」
「お米アイドルだからコメドル。ふふ、プロデュースの腕が試されるわね」
「こ、こめどる…」

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