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▼ アイマイボーダー

※ひとつ前の続き



お礼を言うだけだから別に変じゃないよね。そう、やましい気持ちは何一つないから…ただ単に私はお礼に来ただけで…そんな言い訳をしながらテニスコートに向かって歩く。チャキっとしろ私!黒羽くんへお礼と称したスポーツドリンクを持ち震える足で進むと、あっという間にテニスコートだった。考え事をしていたからかすぐについてしまい、心の準備がでいていない。…と、とりあえず練習風景でも見るかな…


「っていないんかーい!」


テニスコートはもぬけの殻だった。なぜ。今日は部活が休みの日だったのか…仕方が無い、家に帰ろう…


「みょうじさん?」
「あれっ佐伯くん?今日って部活お休みなんでしょ、忘れ物でもしたの?」
「いや部活はあるよ。俺は生徒会の仕事でちょっと遅れて参加なんだけど…誰かに用だった?」
「用があるといえばあるんだけど…ええと…」
「もしかしてバネさん?」
「なっなんでわかったの!?」


後ろから突然話しかけられたと思ったら、去年同じクラスだった佐伯くんがいた。あまり話したことなかったのに気さくでいい人である。なんで私が黒羽くんに用事があるのか知っていたのかはわからないけれど、どうやら部活をしているところまで案内してくれるらしく、世間話をしながらふたり歩いていく。どうして黒羽くんに用事があるのがわかったのか聞いてみると、なんとなく、らしい。なんとなくでわかっちゃうのが佐伯くんクオリティーなんだろう。





「あれれっなんで潮干狩り…?」
「今日の部活は潮干狩りの日だからね」
「佐伯くんと黒羽くんって潮干狩り部とか何かなの?」
「いや?普通のテニス部だよ」
「よく普通って言えるね!?」


佐伯くんに連れられ、たどり着いたのは海でした…そして砂浜には潮干狩りをするテニス部員達がいるのでした…夏にも潮干狩りってできるのね、私知らなかったよ…
首をひねらせる私をおいて佐伯くんはバネさーん!と黒羽くんを呼ぶ。あっけに取られていたけれど私は黒羽くんにお礼をしに来たんじゃないか!私達に気づいた彼は急ぎ足で近くまでやってきた。は、早い…


「なんでサエとみょうじが…」
「あれ、俺言ってなかったっけ?俺達いわゆるアレなんだよ。ね、みょうじさん」
「アレ……?あ、そ、それでね!私っ」
「いやぁ!途中でみょうじさんに会ってね!それで是非とも一緒にって言うから連れてきちゃった」
「ん!?佐伯くん何を」
「ということでさ、みょうじさん」
「うぉあ!?」


私の言葉を遮りまくる佐伯くんは意味のわからない私の背中を押した。ガチンコだ。佐伯くんお前思いきり押しやがったな!
押された私はおっさんみたいな声を出し、私の前に立っていた、黒羽くんのボディーにそのままの勢いで頭突きを入れたのだった。なんとも言えない鈍い音と呻き声が聞こえ…そして私は彼もろとも砂浜にダイブし…このパターン、この二日間で何度目だろう…


「おいこら佐伯テメェ!!」
「わっ!ガチギレだ!ごめんねみょうじさん!でもさ…これを期に頑張ってよ!」
「頑張るったって…あああ!!黒羽くん!黒羽くんごめんね!!」


佐伯くんに怒りを向けるよりも、まずは倒れてから一言も発せない黒羽くんである。そんなに私の頭突きに威力があったのか。彼にマウントポジションをとりつつ肩を揺すったり声をかけたり…少しすると黒羽くんは「う…」なんて呻き声とともにパッチリと目を開く。


「ご、ごめん黒羽くんおなかいたくない…?」
「…みょうじ」
「はい!みょうじです!」
「お前さ、サエと付き合ったりとか、そういう…」
「ええー…?いやそれはないって言うか…」


そりゃあ六角のロミオ様な佐伯くんとお付き合いしたら鼻が高いであろうけれど、私が好きなのは目の前にいる黒羽くん本人であるし、そもそも付き合ってない。多分とんでもミラクルが起きない限りは私と佐伯くんが…なんてことはない。ありえない。
私の言葉に返事をするよりも早く、黒羽くんは上体起こしの要領でぐぐっと起き上がる。どうやら私の頭突き程度でへこたれる腹筋じゃないようだ。
しかしここでひとつ問題がですね…マウントポジションをとっていたものだから顔が近いんですけれど、あの黒羽くんこれってセーフ?付き合ってない男女が5センチくらいしか離れてない距離ってセーフなの?肝心の黒羽くんは起き上がったものの顔は下を向いているのため気がついていないようで。うう…こっち向いて黒羽くん……やっぱり向かないで…


「まじかよ…」
「ま、まじだよ…」
「よかった、俺、結構前からみょうじのことッ」
「…ッえ!?」


勢い良く私の方を向こうとした黒羽くんの顔をまともに見る前に、二人して、固まって、動くことが出来なくなってしまった。私のくちびるに当たった、黒羽くんのくちびる…意外と柔らかいな…いやこんな冷静な状況判断をしている場合ではないんだけれど、今はどうしても熱っぽくてそういう方向にばかり思考が向いてしまうのだ。
こういうのは事故だから、なんてことで忘れるように言ってしまうべき?でも私は忘れたくないし…というか忘れられねぇよ!こうなったらヤケだ。短い恋だったけれど最後に神よご褒美ありがとう!


「黒羽くん、私、」
「…みょうじ!」
「はッはい!」
「今のはよ、事故だし忘れてなかったことにっていうか…」


今日私は何回言葉を遮られただろう。そしてやっぱり、言われてしまった。いやになる。人が覚悟決めた途端にこれだ。チクショウ、悔しい。なんだか涙が出てきそうで唇を噛み締める。ブルブルと震える私に、彼は「わりぃ!やっぱ嫌だったよな!」とか、言ってくるし…逆だし…好きだから、泣きそうなんだよ…黒羽め…


「嫌だよ!!この黒羽こんちくしょう!!」
「い、嫌か、そうだよな、すまねぇ」
「本当だよ!忘れてたまるかってんだ!どんな形でも私はときめいたし!忘れたくないし!す…好きだし…」
「え?」
「これあげるから!!」


無理矢理黒羽くんにスポーツドリンクを押し付けて彼の上から退くと、後ろから佐伯くんが気まずそうな声でごめんね、なんて声をかけた。まったくだよ!っていうかこの騒動はテニス部員の皆様方に大公開中なんだよね…ハハハ……まあ黒羽くん以外に接点なんてないようなもんだしいいかな…


「ッみょうじ!」
「なにさ!」
「す、好きってまじかよ!」
「まじよ、大まじよ、好きだバカ!連呼させないでよバカッ!」
「んなこと言ったってな、バカなもんだから信じられねぇんだよ!」
「じゃあ信じなくてもいい!」
「信じるに決まってるだろ!」
「どっちなの!?」


はっきりしない黒羽くんが、なんだかどうしようもなくもどかしくて、そんなつもりはなかった筈なのにぐりんと振り返ると、いつの間にかというか、すぐそばに、彼、黒羽くんがいた。
失恋したばっかなんだぞ。まだ、まだ、好きなんだからね、近くにいたらドキドキするじゃん…。一歩下がった私を食い止めるように二の腕をがっちりと捕まれて、私を見る顔は真っ赤で、息が詰まる。


「くろ、ばねくん…手ぇ離してよ」
「…あのな…俺だってな、好きだ」
「ま、まじ…?」
「まじだ、大まじ」
「え?え、ええ?」
「信じろっていったのはお前だからな、あー…かっこわる…好きだよチクショウ…」


訳がわかんない…一体全体私の身に何が起こってるんだ。ぼとんと彼の持っていたスポーツドリンクが砂浜に落ちて、それより少し遅く私の体は前に引っ張られて黒羽くんの胸板に頭が当たる。私の思考よりも心臓が早く動いているのは確かで、遠くの方で聞こえる拍手やら冷やかしの声やらも確かで、黒羽くんに抱きしめられてるのも確かで。そんな中ぼんやりと汗の匂いと海の匂いは一緒なんだなぁ、なんて考えてる私がいた。


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