諭吉記念企画 | ナノ




「あーッ!あなたは今朝の!!!」
「ん?…おま、なんでここに…!」


お父さんが部下の人を連れてくると言ったのは昨日。どうせおっちゃんだろうと鷹をくくっていたのだが、どうやら運は私の味方らしい。亜久津仁、とお父さんから紹介された彼の髪型もスーツもすべて見覚えがある。見間違うはずなんかない、この人がまさしく今朝の王子様だ!!





私、名字名前はとても急いでいた。遅刻しそうだったのと本日提出予定でまだ終わっていない課題を持ち帰るのを忘れていたからだ。そんな中チャリンコで街を爆走中に事件は起こる。なんとチェーンが外れてしまったのた!か弱き女子校生が直せるわけもなく、時間も刻々と過ぎてゆく。最悪の事態を覚悟した時、私の王子様はやってきたのだ。


「チェーンが外れたのか、んなもんすぐ直るからそこにいろ」


と私に優しく言うとそりゃもう魔法みたいにパパパーッと直し、なにかお礼を、いらねぇ、せめてお名前だけでも、名乗ってどうするんだ次は気をつけろよ…というやり取りのあと、そりゃもうシビィ後ろ姿を私に向けた。なんで男前な態度。もちろん顔もかっこよかったしぶっちゃけタイプだけど、それ以上に私は彼の中の漢に惚れてしまったのだ。直してもらったにも関わらず王子様の方を見つめぽけーっとしていたため遅刻したのは内緒だ。


「ってことがあってね!ですよね!今朝はありがとうございました!あのチャリンコ一生使います!!!」
「亜久津が遅刻してきたのはうちの娘のせいだったか」
「え!?」
「おいテメェ部長!」


やだぁ亜久津さん口わっるぅい!お父さんはそんなの慣れた様子でハハーンやらほう…とかにやけながら亜久津さんを見ている。ちなみに私も似た顔で彼を見ているだろうから親子って恐ろしい。


「亜久津さん!好きです!結婚を前提にお付き合いしませんか!」
「ハァ!?」
「おい亜久津、娘はまだやらんぞ」
「え〜?あらまお赤飯炊く?」
「オイなんだこの家は!どうして誰もこの頭のおかしさについて突っ込まねぇ!」


心底嫌そうな顔をする亜久津さんに両親と一緒にキャッキャすると彼の眉間の皺がどんどんひどくなっていく。露骨!


「ねっ亜久津さん!好みのタイプってなんですか?」
「あぁ!?んでそんなこと言わなくちゃならねぇんだ」
「あなた好みの女になれるように頑張りますんで!」
「…深紅のルージュが似合う女だな、だからお前にはむ」
「どうしようお母さん口説かれてるわ、やだぁ!」
「亜久津さん口説くなら私を!お母さんじゃなくて私を!!」


深紅のルージュなんて持ってないよ!そもそもルージュ自体持ってないし、そんなの買う金があるならお菓子買って食べるし。でも、そうか…ルージュが似合う…


「亜久津さん、私にはまだ深紅のルージュなんて似合わないと思うんです」
「だろうな」
「だから待っててください!私すぐ似合うような女になるので!」
「…ッチ!勝手にしろ」






「…で、どう?高校も卒業して深紅ルージュ似合うような女になった?」
「お前には似合わねぇよ」
「酷い、そんなこと言うんだ?へぇー?」
「めんどくせぇ女だな全く」
「でもそんな女が嫌いじゃないんでしょ、仁さんは」


深紅ではないルージュを唇に引いてニコリとすれば鼻で笑う仁さん。彼の薬指で光る銀色がか細くて、だけどきらりと綺麗に光るので、私はまた彼の名前を呼んだ。


「仁さん大好き!」
「聞き飽きた」