諭吉記念企画 | ナノ




「だ、大丈夫?」
「これくらいなんてことはない!!」
(すんげー目が泳いてる…)


じゃんじゃかと様々な音が混ざり合うゲームセンター。そしてそこにに立海一似合わない男がいるということに少し心配になる。まさか初めてではあるまい…いや、いやいやいや…ありえる。この戸惑い様は初めてなのかもしれない。

どうして私達がゲームセンターにいるかというと、事の発端は真田くんからのお誘いだった。日曜日は空いているか、空いているのなら二人で出かけないか…と。なんとなく察した方もいるかもしれないが、そう、(一応)私達はお付き合いをしている間柄なのだ。
学校外出会うのは初めてだった為、浮かれに浮かれ、二人して待ち合わせの30分前に到着した、なんてところから今日の初デートは始まった。彼に誘われた骨董市なるものに行ってみたり、ファミレスでご飯食べたり。そろそろ帰るかな…なんて思っていたら突然真田くんに言われたのだ。ゲームセンターに行かないか、と。


「えーっと…真田くんなにかやる?」
「お前は何かやりたいものはないのか」
「え?ううーん…そうだなぁ、強いて言うならカーレースとか?あ、でも私がやってたら真田くんが暇か。いいよ違うのにしよう」
「カーレースか…」


真田くんの口からカーレースという単語が出るのが面白い。真田くんってカーレースするよりは取り締まる側だよね。ぼんやりとそんなことを考えていると、行くぞとだけ言って奥の方にあるカーレースの機体に向かっていく。足早いな、さすが運動部。そしてそのままドカンとシートに腰をかけ、名字と私を呼ぶ。腕を組んだ姿が教習所の教官みたいだ。


「悪いが俺はやり方を知らん」
「でしょうなぁ」
「…名字、お前がよければ対戦しながら教えてはくれないか」
「え!?別にいいけど…大丈夫?」
「ああ」


ちゃりんと硬貨を入れてゲームをスタートさせながら、簡単にブレーキとアクセルの位置を教える。ぶっちゃけるとカーレースにブレーキを使ったことはないのだけれど…。これだけ知っていれば平気だ、なんて言っている真田くんを横目に初心者向けのコースをセット。車体を選びエンジン音とともにゲームがスタートした…。


「あの、なんていうか、ごめん…」
「…気にするな、もう一回やるか?」
「え!?いやいいよ、真田くんの好きなのにしなって」


カーレースで2週差をつけて勝ったところで少し気まずい空気が流れる。や、やっぱり勝たせておくべきだったのかな…でもそういうの嫌いだろうし。微妙な顔の私と難しそうな顔をした真田くん。よし!もう出よう!!耐えらんねぇよこの空気!!


「すまない」
「え?」
「そんな顔をさせて、すまない」
「それを言ったら私だって…ごめん、楽しくないよね」
「お前はどうだった」
「えっと…」


大差をつけて勝ったけれどワーキャー言いながら二人でガチンコ勝負したのは結構楽しかった。知り合いとやるってことは初めてだったし、何より相手が真田くんだったから。それで私が楽しくないわけない。むしろ相手が真田くんという時点で楽しいに決まってる。


「俺は、そのだな…お前をどこに連れてったら喜ぶだとかとんなところが好きがとか、そういうことは、わからない。…前に言っていただろう?ゲームセンターのレースゲームが楽しいと」
「そ、それでここに…?」
「…思い浮かばなかったのだ」
「真田くんのばか…」
「ぐっ…!」
「別にどこでもいいのに…私、真田くんが隣にいてくれたらそれだけで十分楽しいのに」


彼なりに、私に気を使ってくれたんだろう。いつ話したかわからないくらい前のことを思い出して、連れてくるくらいに。不器用だなぁ。どこに行きたいか聞けばいいのにそんな事もせずに、ひたすら考えて、自分の苦手な場所に誘うなんて。


「ありがとね」
「礼を言われるようなことをした覚えはないが」
「それでも、嬉しいよ。ありがとう真田くん、大好き」
「な…にを言ってるんだこんなところで!!」
「さーてと、んじゃ今日はとりあえず真田くんと遊び倒すとしますか!もちろんここで!」
「おい、話を聞いてるのか!」
「いやぁ周りの音がうるさくてなんともかんとも…あ!プリクラ撮ろ!記念にさ!」
「聞こえてるじゃないか!」








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おまけ

「真田くん、プリクラでは指定されたポーズを絶対守らなきゃダメなんだよ」
「そ、そうなのか!?」
「うん。そういう決まりなの(嘘だけど!!)」

『ハートを作ってらぶゆ〜!』

「ほら真田くん、手でハート作って!!」
「こうか?」
「うん、そしたら"らぶゆ〜"だよ!!」
「ら、らぶゆ〜…」
(これ真田くんの部活の人が見たらどう思うんだろ…)