今日の私の運勢は6位とまあ普通で、食堂のご飯も普通に美味しかったし、おじいちゃん先生の授業はいつも通り眠くなった。占い通りというか、なんというか。
まあ朝のニュースの占いがよかったからといってその日が一日中いい物であることの方が少ないのだけれど。
窓の外は曇りがかっていて春にしては少し寒い。雨が降るのかな、天気予報で今日は後半になるに連れて天気が悪くなるっていっていたし。
階段は結露のせいでちょっとツルツルする。やだなあ、ここの掃除じゃなくてよかった。


「ッぅひゃああっ!?」


滑った、階段で、思い切り滑ったあ…!!
尻餅をつくみたいにズルルルと滑り落ちてゆく私、そして目の前には、だっ男子生徒がいるッ…
どいて!
危ない!
思っても口からは馬鹿みたいに悲鳴しか出ないし体はガチンと固まって動きそうにない。
私の騒ぎに振り返った男子が、そりゃもう驚いたように目を見開く。気がついたなら早くどいて!じゃないと私巻き込んでしまう…!


「ンギャアッ!」
「っと、大丈夫ですか!?」
「ッ痛ったあ……だ、大丈夫です…、え?!」


強い衝撃と共に私の体は止まった。
巻き込んでしまうと思っていた男子が止めてくれたようで、なんと優しいことか、私を気遣ってくれている。
そして、こんなことを言いたくはないのだけど、ものすごく股間が痛い…じんじんする…一体私の股間に何が…?
痛いという声にびくんとした彼はぶんぶんと頭を振り乱して、私に謝罪の言葉が降りかかける。


「あっ!?俺、その、止めようと思って!それで!悪気はなかったんです!はい!」
「いやっ!こちらこそどうもありがとうございましたって感じですし!?はい!股間のことは気にせず!」


ハッとした彼につられ私の声も大きくなり、もはや叫び声だ。
可憐な女子生徒が股間と叫ぶのもどうかと思うけれど、階段からすってんころりん騒動は、彼の足が私の股の間に入ることで終焉を迎えたのだ。かなりの勢いで降っていた私を受け止めた彼の足はすごいが、大丈夫なのか。
私の股間は未だじんじんするぞ。


「こか…あっあああ!?!!」
「いやね、大丈夫だからさ!うんうん大丈夫!ほーらもう立てるし!」


止めてくれて私はかなり助かったけれど彼はそうもいかないらしく、大きな体を震わせてわたわたしている。
こうなったら口で言うよりも私が大丈夫という証拠を見せるしかないようだ。よっこいしょ、とは口に出さなかったけれど頭に思い浮かべて階段の真ん中に立つ。うん、平気。階段のせいでお尻も痛いけれど、股間に比べたらこれくらいへっちゃらだ。


「ね?大丈夫…ッ!?」


では、なかった。
主に……スカートのホックが……。
私のお尻の圧迫と度重なる階段との衝突で、どうやら吹っ飛んでいたらしい。立って数秒後、重力に逆らわず、スカートは下へと落ちていく。その様子が私にはまるでスローモーションのように感じられて、余計恥ずかしい。
階段をお尻で降りてゆく女から一変、ニコニコ笑顔で階段で後輩(だと思う)にパンツを見せる痴女になってしまった…


「ご、ごめんなさい!私、ええと…こんなつもりじゃなくて、あの……」


速攻でその場にうずくまり、スカートをウエストの位置に持ってくる。だ、ダメだこれもう使い物にならない…ホックがはじけ飛んでるよう……!
とりあえずこの場所を、せめて彼の目の前からは移動したい。もうどうしようもないくらい痴態を晒してしまったけれど、これ以上晒すのは憚られる。


「あのっ、これ使ってください」
「え?」
「俺ジャケットとかなくても平気なんで、だから腰に巻くとかすればなんとか…あっ!むしろ保健室とかまで運びましょうか!」
「いや!大丈夫!それこそ平気だから!あのでも、ジャケットはありがたい!ありがとう!ありがとうございます!!」

丁度暑くて脱いでたから、せめて隠せるものがあるのすごく助かる!!私が腰に巻いたのを見ると、似合いますよ!と言ってスッ……と驚くべき速さで消えていった。スゲーや……




「あの、鳳くんっている?」

次の日、ジャケットの名前を頼りにどうにかクラスを割り出して、近くの男の子に話しかけると、なんとも微妙そうな顔をされながら教室に入っていく。そして「おーい鳳!また女の先輩、お前にだってよ」という声と共に私へ向かって視線が集まる。
う、うう……。なるほど、鳳くんって先輩からモテるのね。しかもすごく。たしかにかっこよかった。雰囲気は犬みたいで可愛いし。

「あの……あっ!?」
「え、えへへ……その、これ」
「ジャケット、ですよね」
「うん。助かっちゃった」

私がジャケットの入った袋を手渡すと、ざわ…ざわ…と教室が騒ぎ始める。「なんで鳳くんのジャケットを?」みたいな感じで。ねえ鳳くん、どうやら注目の的らしいよ、私たち。

「あのあと大丈夫でした?その、腰とか……こ、股間とか」
「え!?あ、う、うん!ちょっと血が出てたけど、まあなんとか痛くても動けるって感じかな?」

股間ってお前!露骨だね!?
すかさずそのワードは後ろのクラスメイト達に拾われ、更に大きくなるざわめき。どうやら私の受け答えも悪かったようで「もしかして、それってそういう……?」って感じのね、言葉が聞こえてくるんですけど。おーい鳳くん!君聞こえてないの?これ、結構やばくないですかね!?

「よかった……俺、結構激しくしちゃったから先輩のこと心配だったんです」

ッアー!!やめろ!!意味深な言葉をいうな!!

「そうだ、あとスカートとか破れてませんでしたか?」

聞こえる。彼のクラスメイトの騒ぎが…悲鳴が聞こえる……。
必死そうな鳳くんはどうやらそれらがまるで入らないようで、先輩!先輩!と私に質問するばかりだ。彼が大きいおかげで私はクラスの人達はまるで見えないけれど、きっと凄いことになっているんだろう……怖すぎるよう……。

「あ、そういえば先輩って名前なんて言うんですか?」

名前も知らないのに!?どうしてあの先輩と!?
そんな叫び声が聞こえる。あ、ああ……鳳くん、君はどうやらすごいことをしてしまったみたいだよ…?
私が名前を言うとすかさず鳳くんは「名字名前先輩ですね!」と復唱したので、きっと私もあの騒ぎの中に含まれるんだろう。そして多分、次の日には噂が流れるんだろうなあ…ははは……はあ。




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -