どうして?


「人間、やれば出来るものなのね」
「杏ちゃんその言い方はちょっと…」
「うそうそ。でも初日のあれに比べたら見違えるわよ」


先生に料理を教えてもらってから1ヶ月が経った。もちろん私も先生も部活があるので教えてもらうのは週に1度だけ、場所は橘家で食材は私が持ち寄り、料理教室は行われている。料理ができるようになりたいと思った理由は不純だけれど実際のところ何かを作るというのは楽しいし、それがうまくいった時は尚更嬉しい。
机の上に並んだお弁当箱。なんとか形になってきた私のそれは、一応全て手作りである。…私の。ご飯の支度を手伝ったり教えてもらったことを活かしてお弁当の中身にしたり。そんなことから私の料理スキルはマイナス地点からなんとかプラスまで、来たんじゃないかって思う。



「今日のね、私初めて全部作ってみたんだ」
「え!?これ全部名前が作ったの?」
「そうなの。味見もちゃんとしたから食べられるよ」
「名前…頑張ったのね…」


杏ちゃんが涙を拭く真似をしてひとつ玉子焼きをつまんでいった。お母さんは美味しいって言っていたけれどどうだろう。杏ちゃんは先生のご飯を食べてるしな…舌が肥えている分評価も厳しいだろうし…


「あ!美味しい!」
「ほんと!?」
「うん、上手にできてる。前とは比べ物にならないじゃない!」
「うう…杏ちゃあん!」


涙が出てきそうになったけれど眉間を押さえてこらえる。嬉しい。こんなに嬉しいことがあっていいのか。感動している私に大袈裟だと苦笑いする杏ちゃんだけれど、よかったね、ともう一言くれるから好き。


「え?何がそんなにうまいの?俺にも食わせてよ」
「う、わ!びっくりした!」
「名前のお弁当。この子が全部作ったの。ね!」
「う…うん…」


感動の余韻が冷めぬうち、上から声がかかった。こ、この声は我が愛しの彼…愛しの?私が返事をする前に彼は凄いじゃんと一言、そしてお弁当の中身をひとつつまんで食べていった。ああ…そんな勝手に…


「お!ホントだうまい!」
「よかったね名前!」
「せやな」
「いいよな、やっぱ家庭的な女がぐっとくるものがあって……」


なにやら理想像をかたっている彼だが、なんと言うか、興味がわかない。あれ、私本当に彼のこと好きだっけ?そうよ好きだったはず。だってそうじゃなくっちゃわざわざこんな苦手だった料理を作るわけないじゃない。好きだったから……だった?
私が今お弁当を、料理をつくろうって思っているのはどうして?
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