午後五時半の戦争
「結局名前がお弁当作ってるの?」
「ううん、お母さん。私が作っても食材無駄にするだけだし…あ、でもね卵焼きだけは私が作ったの。と言っても昨日のやつなんだけどね」
お弁当の中にある卵焼きは昨日先生と一緒に焼いたものの中で一番綺麗なものだ。へろへろだった卵焼きも回数を重ねる度に綺麗な長方体になっていき、最後には自分が作ったとは思えないくらい綺麗にできた。
ちなみに先生が一度お手本を見せてくれたのだが本当に同じ人間なのかと思うほど手際よく、見ていて感嘆を漏らすほどの素晴らしさであった。あ、大量に作った卵焼きはスタッフが美味しく食べたり、持ち帰って家族に食べさせたり、お弁当のおかずになったりしました。
「そうだ、兄貴から伝言なんだけれど放課後に校門前集合だって」
「え?なんで?」
「あー…まあ私からはごめんねしか言えないんだけど…」
「え?え?まって杏ちゃんそれどういうことなの、ねえ、何が待ってるの!?」
悪い予感だけがビンビンしている私を置き去りに、杏ちゃんはお弁当を食べながら次の授業についての話をしている。今日は部活のない日だから断れないし…どうしよう、すっっ…ごく行きたくない…
「こういうのは初めてか?」
「は、恥ずかしながら…」
「いいか名字、こういうのは積極的に行けばいい。大丈夫だ。俺は肉の方に行くがお前は野菜を頼む。さっき言った奴をとりあえず取れるだけ取れ」
「はい…」
放課後、校門前にいた先生に話しかけると、そのままついて来いと言われ、あれよあれよと私と先生はスーパーにいます。タイムセールとお客様感謝市が重なる日で食材が安くなるらしく…ええそうです。その付き添いです。始まる前ですら主婦の波に飲まれそうになるのに耐えている、なんて状況の私に何ができるだろうか…
「せ、せんせぇ…私もう嫌です、ここ…」
「ハハハ!随分揉まれたようだな」
「ハハハ!じゃないですって!ほらここ!引っ張られてボタンはじけ飛んだんですからね!?」
にんじんやら大根、ねぎ、ごぼう、などなど…ボロボロになりながらもなんとか言われた野菜をかごに入れた私を見て先生はそりゃもう豪快に笑った。笑い事じゃない。こっちは袖口のボタンを失ったんだ。指さしながら見せると、先生は眉毛を八の字にしてこれは…と口をつまらせた。
「…困ったな、縫えるのか?」
「これくらいできます。伊達に手芸部員やってませんよ」
まあ手芸部じゃなくてもボタンくらいならみんな縫いつけられるだろうけど。家庭科でやったし。私の発言に今度は目を丸くさせる先生。なんだなんだ、忙しいな。
「名字お前…手芸部だったのか…」
「え!?な、なんですかその反応!!」
「いや、家庭科はてんで駄目なんだとばかり思っていたもんで…」
「せっ先生ひどい!!」
ただ素直に驚いているようで、それがまたムカつく。料理がからっきしなだけで手先は器用だもん!多分!怒っているのが通じたのか、先生は悪い悪いなんて言い、私のただでさえ乱れている髪の毛をもみくちゃにする。こんなことで許されるとでも思ったか先生!撫でればなんでも許してもらえると思ったら大間違いなんですから!チクショウ許す!!