まったくもってその通り
「え、えと、はじめまして!杏ちゃんのお友達の名字名前です!この度は宜しくお願い致します!!」
「ああ、よろしく。いつも杏が世話になってる。こいつからよく名字の話を聞いているからか初めてって感じがしないが…」
「ちょっ…そげんこと言わなくてよか!大体名前も!兄貴相手にそんなかしこまらなくってもいいって!」
「いやそんな…流石にそれはちょっと厳しいものがあるかな…」
杏ちゃんに紹介すると言われた次の日の放課後、私は橘家にお邪魔していた。理由は単純明快でその紹介してくれる人物こそ、彼女のお兄さんこと橘桔平先輩だからだ。杏ちゃんとは一緒に遊んだこともあるし家族の話も聞くけれど、実際にお兄さんにあったのは初めてで心臓がバクバクである。杏ちゃんとお兄さん…似てねぇ…お兄さんの方すごい得を積んでそうなんだけど…
「えっとお兄さん、あの、なんとお呼びしたらよろしいでしょうか…」
「別になんでもいいんだが…でも杏以外にお兄さんなんて呼ばれるとくすぐったいな」
「なら橘さん?」
「それだと私も呼ばれてるみたいだから却下」
「うーん、なら…そうだなぁ…先生!先生はどうですかね!」
お料理の先生だし!私が思いついたように言うと同じタイミングで二人が吹き出した。おお、さすが兄と妹。息があってる。感心していると杏ちゃんが先生(仮)の背中をバシンバシン叩きながらヒーヒー笑っている。
「あははっ!兄貴…先生とか全然柄じゃないじゃんっ…!!」
「ええー…そこまで…?」
「確かに仏教あたりの教えは説いてそうだけどさー!」
「ぶふぅ!?」
自分のお兄さんになんちゅうこと言い出すんだ杏ちゃん。確かにそんなこと思ったりしていたけれども!でも口に出していいことなのこれ!?思わず吹き出した私を見て彼女の笑い声はもっと大きくなる。そ、そこまで笑わなくても…
「おい杏、笑いすぎだ」
「だっておかし…っ!」
「あーもういい。名字、俺のことは好きに呼んでくれ。こいつの言う通り先生なんて柄でもないが…」
「いえ!先生は先生ですよ!体育の先生っぽいですし!」
「まあ教えるのは家庭科だけどな」
ごもっともである。