でろでろキッチン



まさか私にこんな才能があったなんて。朝7時半、フライパンを持った私は確信してしまった。料理は向いてない…と。







「杏ちゃん、卵焼き1個ちょうだい」

「いいけど…それならさっきから隠してるお弁当の中身見せてよね。ずっと気になってるんだから」

「…絶対に引かない?」

「まあ、見てみないとわかんないけど」



昼休み、定番となっていた杏ちゃんとのお弁当。二段重ねのお弁当箱のご飯の部分だけ机に置き、おかずを見せないように覆い隠す私に杏ちゃんは不思議そうにつっこんできた。いつもならこんなことしないからだろうけれど、私にだって理由があるのだ。



「…はい」

「こ、これは…どうしたの?名前のお母さん具合悪いの?」

「このお弁当ね、私が作ったの…」

「えー!?何それ!どういう風の吹き回し!?」



卵焼きはぐちゃぐちゃでほうれん草はやわらかすぎ、焼き魚に至っては真っ黒の焦げ炭みたいになっている。なんでここまでひどいものが作れたのだろうか。もはや一種の才能かもしれない。…私こんな才能嫌だ…
ご飯の上に卵焼きを置いてくれた杏ちゃんに感謝し、経緯を語る。私が突然料理なんか始めたのも、元はといえばある一言が原因なのだ。

昨日の放課後、忘れ物をして取りに帰った私はとある男子の会話を聞いてしまったのが始まり。悪いかな、なんて思いつつも聞き耳を立てると好きな女の子のタイプの話だったのだ。そして「俺、料理のできる女の子がタイプなんだよねー」という一言が聞こえた瞬間、私の心の奥で何かが弾けた。その男子というのが、まあ、私の好きな男の子なんだけれど…



「…名前って単純よね」

「それは、わかってるけど…」

「でもさ、そういうのいいと思うよ。好きな人のためにって素敵じゃん」

「杏ちゃん…!」

「でもこの腕前はちょっとね…お母さんとかに教えてもらえば?」

「教えてもらおうとしたんだけど、理由話したら笑われちゃって」



素直に理由なんて言わなければよかったんだけど、ついつい話してしまいお母さんは爆笑、それが原因で喧嘩してしまったのだ。教えてくれなんて言えない。私が杏ちゃんからもらった卵焼きを食べながら言うと、ハッとなにか思いついたかのように輝いた笑顔を向けた。…この卵焼き美味しい。


「私が料理出来る人、紹介してあげる!」
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