うすらぼんやり天井を見つめる。冷えピタはもう生温くて効果があるのかないのか疑問だ。風邪をひいてしまった。それも、バレンタインに。馬鹿だなぁって思うし本当は無理やり学校に行くつもりだったけれど、熱はぐんぐん上がるし咳だって出る。風邪をうつすことになったらとてもじゃないがたまらない。


「だからって、なんでまた…バレンタインに…」


せっかく作ったのに、こんなのってありなのかな。脳みそが溶けてるんじゃないかってくらい思考が巡らなくてため息。仕方ない、もう寝よう。こんな体じゃ何もできないし。明日はお休みだし遅くなっちゃうけど月曜日に…腐らないといいんだけど…







「め、めぎらごん……」
「こんなときに何やってんだよアホか」
「うう……ん、あ、あれ…夢…?」
「おう。おはよ」
「おはよ…なんだ夢か……って、えー!?」
「風邪で熱出したっていうもんだからヒデェのかと思ったら割と元気そうで安心したわ」


なんの夢見てたんだよ、という質問にドラクエの夢…と答えると色気がないと笑い飛ばされる。仕方ないじゃん新作出たばっかだし…じゃなくて!


「なん、で…丸井くんがいるの…っ!?」
「なんでもくそもねぇよ。お前が学校休んだからここにいるんだろ」
「え…いやだからって風邪うつっちゃうし、私パジャマだし…!えっえ、お、お母さんったら……」
「彼氏だって言ったらすんなり入れてくれたぜ、いやーいい母親持ったよなぁお前」
「ありがと…じゃない!!もうっ!丸井くん、お見舞い嬉しかった!!だからもう帰って、よ!!!」


なんでこんな髪もぐちゃぐちゃであんまり可愛くないパジャマで、汗だってすごいのに…よりによってこんなところ見せなくちゃいけないの!はあはあと息を切らして言うと驚いたように目をパチクリさせる丸井くん。ああもう大声出したら頭グラグラするし丸井くんはかっこいいしお母さんは余計なことするし……


「…そんなこというなよ、結構心配してたんだからな。いや今も心配してる。お前辛そうな顔してるし」
「…う」
「ったくお前も馬鹿だよな。こんな日に風邪ひきやがって。今日のためにせっかく作ったのにその本人がこれじゃあな」
「つくった…って?」
「そんなのチョコに決まってるだろ。お前、前に食べたいって言ってたし」
「…そうだっけ?」
「うわ、覚えてたの俺だけかよ!」
「嘘、覚えてるよ。ありがとね」


まさか今日もらうことになるなんて思わなかったけどね。丸井くんの作ったものなんだから、とびきり美味しくて、それはもうほっぺた落ちちゃうんだろうな。…ああ、そうだ。月曜日になんて考えていたけれど本人が来てくれたのだから、今渡しちゃえばいいんだ。


「丸井くん、机の上の…紙袋、持っていって。バレンタインのチョコなの…よかった…渡せて」
「マジ?やった、開けていい?」
「…おうちに帰って、ゆっくり食べて欲しいな」
「おう!」


ニコニコーっとする丸井くんに少し気持ちが楽になる。丸井くんがいたら風邪も治っちゃうんじゃないかな…なんて。


「お、お前なぁ…」
「え?」
「なに可愛いこと言ってんだよ…ほんとに…ばか」
「あ、え、もしかして、声でてた…?」
「出てた!…あーもう!なんかしたくてもお前がこんなんじゃなにもできねぇし!俺をどうしたいんだよ!!」
「ごっごめん…」
「許さねぇからな!!」


そんなこと言われたって困るよ、丸井くん…。困惑する私をおいて丸井くんは私の頭を撫でる。う、汗かいてるから触られたくないんだけどな。もう許してくれ…ドキドキして体熱くなってきたし…


「ばか」
「えっ、あ」


丸井くんがぐっと近づいて思わず目をつぶる。ダメだよ、風邪うつっちゃうよ。ぎゅっと固く閉じたまぶたを丸井くんに撫でられてどくりと心臓がはねる。ちゅう、なんてわざとらしいリップ音のあと、ゆっくり目を開ける。いたずらっ子な顔をした丸井くんがにやりと笑った。


「……なんでほっぺ」
「そりゃ風邪うつったら困るしな。それともなに?お前唇にして欲しかったの?」
「え!?あ、いや、えと…」
「それは、お前がちゃんと風邪治したら。ちゃんと熱も下がって、元気になったら、そしたら…な」


ああもう、どうしてこんなにかっこいいことを言っちゃうんだろう。こんなことされちゃったら熱なんか下がるどころかぐんぐん上がっちゃうよ。
早く風邪なんか治して、今度はちゃんと可愛い格好で、私から丸井くんに会いに行こう。そうしたら今度は私が仕返しして、にっこり笑ってやるんだから。


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