「はーあ…」


バレンタインも終わりに近づいてきた。意中の人には結局渡せずチョコセールにて買い漁る私。両手にチョコ。彼に渡す予定だったチョコが入れられた紙袋と先程ショップで買ったチョコの袋、かけることの三。まあ渡せなかったのは仕方が無い。来年渡せばいいじゃないか、あと一年あるんだから問題ないよ私。…って、これ、去年もそう思って結局渡さなかったんだよなぁ。そんなこと言ったって衛生面を考えて前日に作るから徹夜しちゃうし緊張して眠れなくていつも遅刻ギリギリだしアイツ人に囲まれているから渡す機会つかめないし…あーもう!こんなの無理ゲーじゃん!!


「やってらんねー!!」


ぶんっと腕を振り回した瞬間、それはまあ綺麗に、スポーンと紙袋が手から離れた。あんぐりとしている私を置いて遠くの方(私の視力では良く分からないのだけど)で歩いている男子の集団に目がけ、勢いよく紙袋はぶっ飛んでいく。ぐるんぐるんと回転し私の元を離れたチョコ(一応本命)…ああ、そこの人、振り返ってキャッチしてくれないかなーなんて


「ギャア!?」
「ゲエーッ!!?」


キャッチどころか頭に直撃してしまった…だとッ!?やっべぇ謝りに行かなくっちゃ!あの人同じ学校の人っぽい…し……


「いってぇ…なんだこれ!?」

(って切原くんじゃんんん!!!!)



謝罪へ向かおうとした足がぴたりと止まり冷や汗がどっと吹き出た。なんでまた切原くんにぶつかるんだ。確かに彼に渡したいとは思ったけれどこういうのは求めていない。あ、あ、ああ…どうしようどうしよう…


「…そうだ逃げよう!」


彼がこちらを向く前に方向転換し適当な店に入る。ここら辺は同じ学校の人も沢山いるし、ま、撒けますように…ただでさえ接点がないというのに嫌われてしまったら私はどうしたらいいんだ。神様仏様切原様、どうか私をお許しください…運が悪かった。ただそれだけなんです。







「おい名字」
「な、なんでしょうか…」
「昨日はよくもやりやがったなぁおい!」


ガッテム!私が犯人ってモロバレじゃねーの!!一応「なんのことかなぁ〜?」なんて言ってみるけれど切原くんは一歩も引かずに私の机に手をつきメンチを入れている。
バレンタインの次の日、ビクビクしながら教室に入った私。切原くんがいないことを確認して席につき、ほっと一息…する間もなく切原くんは教室に入り、どかどかと荷物も下ろさずに私の席に詰め寄った。


「うるせー!白々しいんだよ!」
「なっ…なんのことかわからないんだけどなぁー…?」
「チョコだよチョコ!!お前俺の頭にぶち当てやがって!周りにいるのかと思って見回してもどこにもいねぇし!角が当たって地味に頭いてぇし!!」
「ご、ごめんなさい…」
「ついに認めたな!!」
「あっ!?」


本当に悪いことをしたなぁと思います。だから土下座で勘弁してください。というか上手に撒けていたみたいなのに私って特定できたのか、見た目によらず切原くんすごいな。第六感とかだろうか。すねたような顔で私に責め立てる彼はハァー…と大きなため息をついたあとそっぽを向きながら続けた。


「フツーに手渡してくれればいいのに…」
「え?」
「ったく!中の手紙とか見てこの字名字のだよな、とか持ってた紙袋だよな、とかすんげー心臓に悪かったんだけど!?間違ってたらどうしようかと思ったぜまったく!!」
「切原くん観察眼なかなかだね」
「そりゃまあお前のことよく見てるし…じゃねぇよ!いいか、今度はちゃんと直で渡せよ!?ぜっったいだからな!!」
「う、うん…?」
「それと!手紙、あれ、お…俺もだから!じゃあ!!」
「え?あ、ああ…うん?」


マシンガンのように言いたいことを言いきり、スッキリしたのか自席につく彼。手紙…手紙って何を書いたっけかな。チョコとは真逆にあれを書き上げたのはかなり前。夜中のテンションで好きという気持ちを書き殴り、かなり恥ずかしい手紙になったということは覚えているんだけれど…ええと俺もだから、というと…


「え?切原くんって私のこと好きなの?」


眉間にしわを寄せながら首をかしげてつぶやくと、ブフゥッ!と飲み物を口にしていたらしい切原くんが盛大に吹き出した。

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