バレンタイン特有の甘ったるい空気は割と好き。甘いものが好きというのもあるけれどやっぱり女の性というか、好きな男の子にチョコと気持ちをプレゼント…なんていうのは憧れなのだ。

群青の包み紙に覆われた長方形の箱の中には少ないお小遣いから大奮発の中学生にしては高級めなチョコレートが6粒きらきらと詰まっている。試食させてもらって、高いチョコと普通の板チョコのさが良くわかったけど、ものすごく美味しい。あとはこれを渡すだけ。…断られても大丈夫なように自分が食べたいやつにしてしまったけれど、まあ、いいよね。


「あ、おはよう名字さん」
「おっおはよう!鳳く、ん……モッテモテだね?」


笑いかけてくれる鳳くんにどきん。今日もありがとうございます。そしてとんでもなくモテてますね。なんだその両手の紙袋。マンガか。…いや、これだけ貰っているのならば私のチョコだって貰ってくれるんじゃ…目立ちはしないだろうけれど受け取ってくれたら本望というか…


「モテ…あ、これ?俺今日が誕生日だから色々もらって」
「へえ、誕生日…えっ!?鳳くんって今日誕生日なの!?おめでとう!!」
「うん、そうなんだ、ありがとう。バレンタインと被ってるからよく一緒にされて…祝ってくれるのは嬉しいんだけどね」


っべー!それ私もやろうとしてたわ!!だって鳳くんが誕生日って今知ったしね!!我ながら遅すぎである。好きな男の子の誕生日くらい把握しとけよな…ほんと…


「ごめん私鳳くんの誕生日って知らなくて渡せるものないや…来年はちゃんとお祝いするね!」
「え?!いやっいいよ!そりゃあ俺だって名字さんに教えてなかったしそれに、来年も名字さんが祝ってくれるならそれで十分、だし…」
「お、鳳くん…!」


なにこれ!?鳳くん天使!?地上に舞い降りた天使なの!?エンジェルスマイルにきゅーんとしていると恥ずかしそうに頭をかいてへへへ…なんて顔をくしゃっとさせる鳳くん。この笑顔が見られるなら私彼女じゃなくてもいいわ…一生友達でいいわ…守りたい、この笑顔。


「あっ!そうだ忘れてた、その、これ」
「…あ、もしかしてバレンタインの?」
「うん、その、もらって欲しいなって。誕生日プレゼントはないけれどバレンタインは受け取って?」
「わあっ!いいの?ありがとう名字さん!」
「(っし!笑顔ごちそうさま!!!)お店で買ったやつだから美味しいと思うよ!」
「お、お店で…?」
「え?うんお店で買ったの。キラキラしてて一番美味しそうなやつ。というか実際めちゃくちゃ美味しかった」
「…そっか」


にっこにこだった鳳くんの顔に雲がかったのはすぐだった。え?わ、私もしかして地雷踏んだ…?嘘だろどこが地雷たったの?わ…わかんねぇよ…とりあえず私のチョコが原因なんだろう。包装が、包装が悪いのか。ピンクの包装の方を買うべきだったのか!ごめんね鳳くん!ピンクだと値段500円高くなるんだ!だから群青にしちゃったんだよ、ごめん!!守りたいこの笑顔、じゃなかった。私が彼から笑顔をなくしてどうするんだ。


「あ、あの鳳くん」
「ごめん名字さん」
「エッ!?やっぱピンクがよかった!?」
「ピンク…?いや、そうじゃなくて。来年も祝ってくれるだけでいいって言ったけれど、撤回する」
「う、うう…調子に乗ってごめんなさい…」
「ちっ違うんだって!俺、来年は名字さんの手作りのがほしいなって」
「…えっと…チョコ?」
「…うん」
「私料理すごいへたっぴだって評判だよ?」
「あはは!誰に評判なの?それにそれでもいいんだ、俺、好きな女の子から手作りのバレンタインもらってみたかったし…」
「お母さんとか友達とか……ってえ、ええっ!?」
「あっ!!?」


こ、このタイミングで言うんだから、それって私のことだよね…?ぼわっと顔が熱くなってまともに鳳くんの顔が見れない。うわ、うわぁ…どうしよう…とりあえず今日から来年に向けてチョコ、練習しなくっちゃ。

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