チョコが余った。毎年交換用より少し多く作っているけれど、どうやら今回は多く作りすぎてしまったようだ。クラスの女子にはみんな配ったし、一体どうしたものか。カバンの中でひっそりと主張するリボンの巻かれたそれは昨日四苦八苦しながら包んだやつで、だから自分からそのリボン解くというのは気が引けるというかなんというか…


「ねえ忍足」
「ん?」
「チョコって好きだったりする?」


それなら誰かに押し付け…ゲフンゲフン!あげてしまえばいい訳で。それなりに話のする…クラスの女子はもう全員にあげてしまったしから…となると人は絞られてくる。
タイミングが良くがらりと扉を開けてクラスに入ってきたテニス部ふたり…白石、はまあまあ会話するけれどあいつチョコもらいまくってるもんなぁ、別のやつにしよう。…となったら選択肢は消去法で必然的に忍足になる。


「え!?まあ??おう、す、好きやけど!?」
「そ、そう…」
「あかん謙也名字さん引いとるわ」


思ったよりもガッツリ反応されると自分で言っといてアレだけど引く。そうか…そうだよな、普通の男子はバレンタインはウッキウキでドッキドキのイベントか。こんなクラスメイトのチョコでも貰えたら嬉しいものなのかも知れない。


「とりあえず忍足にあげる。ハッピーバレンタイン?」
「お、おお…!」
「早めに食べてね、手作りだし傷んでダメに…なんてなったら悲しいし」
「おう…!」


話を聞いてるのか聞いてないのか微妙な忍足は渡した包を下から見上げたりリボンをつついてみたり、物珍しそうにしている。何だその反応。忍足が両手に包を挟んで「ほう…」なんて言ってるもんだから思わず美食倶楽部の方ですかといいたくなる。どうしよ、一口食べてムホッっ言ったら。俺が誰だか知らぬはずはあるまいな!忍足謙也と知りながらこんなものを出したのか!この俺も舐められたものだな!って家に乗り込まれたら…雄山かよ…


「すみません美食倶楽部の会長の舌には合わないと思います」
「美食倶楽部ってなんやねん」


白石のツッコミをスルーして忍足を見ればいつの間にかリボンは解かれ、今まさにチョコが口に運ばれるところだった。おい、ここで食べるんか。ゆっくりと一口、昨日焼き上げたブラウニーを食べた忍足はにこーと笑って私の方を見る。


「めっちゃうまいやん!」
「あ、ほんと?よかった」


本当によかったわ。美味しい美味しいと連呼して食べる忍足を見て本当にホッとした。ブラウニー投げつけられたらどうしようかと思った。いや、そんなことしないヤツっていうのはわかっているんだけど…


「ごちそうさん!」
「いやまだあるじゃん」
「これは…その、家で、食うねん」
「浪速のスピードスターが珍しいこともあるんやな」
「バッ…白石!!」


そういやこいつ早食い大会に出てたな。そう考えると美食倶楽部の…なんて考えは普通に杞憂だったようで自分のアホらしさに苦笑い。しかし問題は忍足だ。いつもなら浪速のスピードスターや〜ぱくぱく〜うまい〜!って感じで食べているのにすごくゆっくり食べているし…


「あの、ごめん」
「え?」
「あんまりおいしくなかったんでしょ、それ。よくよく考えてたらいつもの忍足ならとっくに食べきってるだろうし…」


だから返していいよ、というと目をまんまくさせて二人揃って私を見た。なんだこいつら。忍足の名前を呼ぶと嫌だと言って返してくれない。ぶんぶん首を振って胸のあたりで抱きしめるみたいに持っているので無理やり取るわけにも行かず、仕方なく白石を見れば複雑そうに謙也もかわいそうになぁ…なんてつぶやいた。なんだその反応。やっぱり私のチョコもらってかわいそうに、ってことか。ちくしょう。露骨すぎる。


「名字、俺は!」
「なによ」
「別にまずい思ったんとちゃうん、ただ、なんや、せっかくお前からもろたのに一気に食べるんはもったいないっちゅーか、あ、味わって食いたいんじゃ!悪いか!」
「わ、悪くないけど…」


そういう風に言われるとちょっとドキドキする。いや、ちょっとじゃなくてかなり、だけど。あー、うー、と言葉にならない声を出してから手を忍足の前に出す。顔はちょっと熱いから、見られないようにうつむいたまま。


「やっぱり返して」
「はあ!?おまっ話聞いとったんか!?」
「聞いてた。その、忍足にはそんな余り物じゃなくて、ちゃんとあんたへ作ったの食べて欲しいっていうか…ええと……悪いか!!」
「わ、悪くない…けどこれはやらんからな!!」
「なんでさ!」
「お前がくれたもんやからに決まっとるやろ!」
「えっ、あ……よくばり」
「…うっさい」


チョコの材料残ってたっけ。帰りに買えばいいかな、同じブラウニーじゃなくてもう少し手のこんだやつにして、それで、それで今度はちゃんと渡そう。本命のやつだよ…なんて言って。
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